研究課題
アナプラズマ科細菌には、マダニ媒介性新興感染症の「ヒト顆粒球アナプラズマ症」および「ヒトネオエーリキア症」の病原体であるAnaplasma phagocytophilumやNeoehrlichia mikurensisが含まれている。日本国内では、これらの細菌が未だに分離されていないため、その基礎微生物学的知見が極めて乏しい。そこで、本研究では、難培養性アナプラズマ科細菌に感染した媒介マダニや野生動物の検体を用いて、メタゲノム解析を駆使することにより、これら細菌のゲノム情報を含む分子遺伝学的知見を蓄積することを目的とした。昨年度は、当研究室が保持していたA. phagocytophilum感染シュルツェマダニの唾液腺の全DNAをGenomiPhi V2によりまるごと増幅したDNA(GPa-DNA)を用いて、16S rDNAを標的としたメタゲノム解析を実施し、A. phagocytophilumのゲノム情報が取得可能と思われる1匹のシュルツェマダニを見出して、そのゲノム解析を開始した。当該年度はこのゲノム解析を推進させた。具体的には、GPa-DNAを酵素切断した400 bpほどのライブラリーを作製して次世代シーケンス解析(シングルシーケンス)を6回行い、さらにメイトペアライブラリーを作製し次世代シーケンス解析を1回行った。その結果、totalで8,976,356個の塩基配列 (reads) を得ることができた。そして、A. phagocytophilum米国ヒト分離株のゲノムをreferenceとしたアッセンブル・ギャップクローズ解析を行った結果、1,473,258 bp、265,943 reads、221 contigs、50.52 coverageから成るScaffoldを得ることに成功した。その後、このScaffoldを基に、ドラフトゲノム配列を作成した。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に進んでいる。当該年度は、これまでに見出したA. phagocytophilumが多量に感染しているシュルツェマダニについて、その唾液腺DNAのライブラリーを用いて、国内初のA. phagocytophilumのドラフトゲノム配列の取得を主な目的としていた。ライブラリー作製のためのマダニ唾液腺DNA(GPa-DNA)には、大量の宿主マダニDNAが混入しているので、これらの中からA. phagocytophilumの十分なゲノムDNA情報を得るためには、次世代シーケンサー(Ion torrentシステム)解析におけるread数を増やす必要があった。そして、シングルシーケンスで6回、メイトメアシーケンス1回の解析から、最終的に約900万readsを得て、このreadsのA. phagocytophilum米国ヒト分離株のゲノムをreferenceとしたアッセンブル・ギャップクローズ解析から221 contigs・50 coveragesから成る 1.47MbのA. phagocytophilumのドラフトゲノム配列を作成することに成功した。現在、ドラフトゲノム配列中で信頼度の高い配列についてAnnotationを開始し、また異なる長さのメイトペアシーケンス用ライブラリーの作製も進めており、これらのメイトペアライブラリーの次世代シーケンス解析により、ドラフトゲノム配列からコンプリート配列の構築を目指している。
現在、得られた国内のA. phagocytophilumのドラフトゲノム配列からコンプリート配列の構築を目指して、異なる長さのメイトペアシーケンス用ライブラリーの作製を進めている。これらのメイトペアライブラリーの次世代シーケンス解析により、contig数が大幅に減少することが期待でき、ドラフトゲノム配列に存在する多くのギャップがかなり埋まるものと考えられる。しかし、完全にギャップが埋まらない可能性もあり、その場合はcontig数にもよるが、PCRによるギャップクローズ解析も視野に入れている。また、同時に、得られたドラフトゲノム配列中で信頼度の高い配列についてはAnnotationを推進させる。さらに、A. phagocytophilum以外では、N. mikurensisのゲノム情報の取得についても進める予定である。N. mikurensisの場合は、N. mikurensisが感染したマダニの唾液腺GPa-DNAと野ネズミの脾臓DNAが利用可能であるが、宿主のマダニや野ネズミからの相当量のDNAの混入が考えられる。よって、total read数をかなり増やす必要があると考えている。最近、N. lotoriのゲノム配列が公表されたので、これをreferenceにして、得られるreadsをマッピングすることが可能となった。よって、少なくともN. mikurensisのドラフトゲノム配列までは取得できるものと期待している。このようにして、次世代シーケンス解析を駆使し、国内初のA. phagocytophilumおよびN. mikurensisのゲノム情報を蓄積したい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件)
Ticks Tick Borne Dis.
巻: 7 ページ: 394-397
10.1016/j.ttbdis.2015.12.016.
Jpn. J. Infect. Dis.
巻: 68 ページ: 434-437
doi: 10.7883/yoken.JJID.2015.003.