研究課題/領域番号 |
26460532
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
大橋 典男 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (10169039)
|
研究分担者 |
吉川 悠子 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 助教 (00580523)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 細菌 / ゲノム / 新興感染症 / Anaplasma / マダニ媒介性 |
研究実績の概要 |
アナプラズマ科細菌には、マダニ媒介新興感染症の「アナプラズマ症」の病原体であるAnaplasma phagocytophilumなどが含まれる。日本国内では、この細菌が未だに分離されていないため、その知見が乏しい。そこで、本研究では、難培養性A. phagocytophilumに感染した媒介マダニなどの検体を用いて、メタゲノム解析を駆使することにより、この細菌の全ゲノム配列の解読を進めている。我々は、これまでに、A. phagocytophilum感染シュルツェマダニの唾液腺のDNAを用いて、次世代シーケンサーで約900万リードを獲得し、このリードを米国ヒト分離株ゲノムのリファレンス配列にマッピングして、大まかなドラフトゲノム配列の作成に成功した。当該年度は、さらに詳細に解析を進めるため、約4,700万リードを獲得し、de novo assembleにより、total contig sizeが3Mbの細菌群のゲノム配列を得た。これらのcontigsにはA. phagocytophilum以外のも含まれるため、metablast解析を行い、A. phagocytophilumのcontigsを抽出した。得られたA. phagocytophilumのcontigs数は約200個で、予測されるgenome sizeは約1.4Mbであった。また、それ以外のcontigsで、A. phagocytophilumより約10倍多い細菌の配列の存在が明らかとなった。これらの配列は、A. phagocytophilum のGC%とは異なり、さらにblast検索でも高い相同性の配列が見られないことから、これまで未知であったシュルツェマダニのsymbiontのゲノム配列の可能性が高く、このsymbiontは新種と考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進んでいる。当該年度は、これまで得られたA. phagocytophilumの大まかなドラフトゲノム配列について、さらに精度の高いゲノム配列の取得を主な目的とした。そのためには、次世代シーケンサーによるさらなるリード数の獲得が必要であった。そして、解析を進めた結果、約4,700万リードを獲得し、in silico解析により、マダニ配列を除去後、細菌群の配列を詳細に精査し、それらの配列のde novo assembleを行った。その結果、細菌群のゲノム配列と思われる約600個のcontigsが得られ、そのtotal contig sizeは約3Mbであった。これらのcontigsにはA. phagocytophilum以外のものが含まれるため、各contigのGC%などを比較した後、metablast解析を行い、A. phagocytophilumの配列を抽出した。その結果、A. phagocytophilumと思われるcontigsが約200個得られ、その予測される genome sizeは約1.4Mbであることが判った。また、それ以外のcontigsの中にはA. phagocytophilumの配列よりも約10倍多い細菌の配列が存在していることも判った。これらの配列は、A. phagocytophilum のGC%とは異なり、さらにblastpやblastnの検索でも高い相同性の配列が見られず、未知の細菌のものであった。実は、マダニには共生細菌(symbiont)の存在が知られているが、シュルツェマダニ(Ixodes persulcatus)の共生細菌のゲノム情報は全く得られていない。よって、この未知の細菌がそのsymbiontであると推察され、おそらく新種であると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、マダニ唾液腺中から得られた国内のA. phagocytophilumのcontigsからコンプリートゲノム配列の構築を目指して解析を進めている。これまでは、ギャップクローズのために、メイトペアライブラリーを用いた次世代シーケンス解析を試みできたが、宿主マダニの配列が多すぎるため、十分な情報が得られなかった。そこで、現在、最近注目されている安価なLong read sequence法の検討を進めている。この方法は、数十kbのreads(total 20 Gbまで)を得ることができる。これにより、これまでのA. phagocytophilum のcontigs間の多くのギャップがかなり埋まり、contig数が大幅に減少するものと考えられる。また、このLong read sequence法を用いることで、A. phagocytophilumのみならず、新種と思われるシュルツェマダニの共生細菌(symbiont)のゲノム配列もコンプリートできることが期待される。特に、symbiontのゲノム配列は、データベース上にリファレンス配列が存在しないため、de novo assembleでコンプリートしなければならない。よって、このLong read sequence法は極めて有効的であると考える。さらに、このLong read sequence法は、A. phagocytophilum以外の難培養性アナプラズマ科細菌のNeoehrlichia mikurensisのゲノム情報の取得についても応用可能と思われ、その検討を進めている。このようにして、次世代や新世代のシーケンス解析法を駆使し、国内初のA. phagocytophilumや新種のsymbiontなどの全ゲノム配列を解明したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、アナプラズマ症の病原体である難培養性Anaplasma phagocytophilumを保有するマダニのgenomic DNAを用いて、メタゲノム解析により、A. phagocytophilumの全ゲノム配列を解読することが目的である。これまでに感染マダニのDNAからA. phagocytophilumの大まかなドラフトゲノム配列を得ているが、宿主マダニのDNAの混在が多く、ギャップクローズの方法に改善が必要であった。つい最近、安価で高性能なLong read sequence(LRS)法が活用できるようになり、これにより、ギャップクローズを容易にする可能性がでてきた。したがって、本研究を次年度まで延長し、このLRS方法により、A. phagocytophilumの全ゲノム配列の解読を進める予定である。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度繰越し予算は、最近注目されている安価で高性能なLong read sequence (LRS)法の試薬などの消耗品購入の経費などに充てる。このLRS方法は、高額な機器を必要とせず、試薬等を含めた消耗品レベルの比較的安価なキットで、数十kbのreads(total 20 Gbまで)を得ることができる。これにより、これまでのA. phagocytophilum のcontigs間の多くのギャップがかなり埋まり、contig数が大幅に減少するものと考えられる。また、A. phagocytophilumのみならず、新種と思われるシュルツェマダニの共生細菌(symbiont)の全ゲノム配列も解読できることが期待される。このようにして、次世代や新世代のシーケンス解析法を駆使し、国内初のA. phagocytophilumや新種のsymbiontなどの全ゲノム配列の解読に努めたい。
|