メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)は、その薬剤耐性や持続感染能力などにより、臨床現場においてしばしば難治性感染を引き起こす。申請者は、黄色ブドウ球菌のβ-ラクタム剤耐性と感性、溶血毒素の産生と非産生、small colony variant(SCV)とLarge colony variant(LCV)などの全く“正反対”の表現型が大規模ゲノムの可逆的な逆位(Flip-Flop逆位)によりswitchingする事を見出した。そして、そのswitchingにより病原細菌がヘテロ細胞集団を形成し、それを維持することにより宿主に持続感染を引き起こすことであると仮説を立てた。 本研究を通じて、目的とした持続感染設立メカニズムについて、以下のような結論を得た。1)感染初期にLCVsが産生した毒素が組織を障害し、至適な感染の場を作り、2)感染中期にLCVsがバイオフィルムを形成することで強固な防護壁に囲まれた感染巣を構築し、3)感染後期に菌が免疫回避に有利なSCVsと化学療法に抵抗するLCVsの2つの性質を使い分けることで持続感染が成立するという感染モデルが考えられる。以上の結果は、過去の先行研究では重要視されていなかったLCVsが、SCVsと同様に持続感染において重要な役割を担っている可能性を示唆する。即ち、本菌の表現型スイッチングが、生体防御の回避能力を持つSCV型を維持したことで長期間を渡る持続感染が成立した遺伝学的要因であると結論付けた。
|