研究課題/領域番号 |
26460537
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
花輪 智子 杏林大学, 医学部, 講師 (80255405)
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研究分担者 |
神谷 茂 杏林大学, 医学部, 教授 (10177587)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 百日咳菌 / 緊縮応答 / ppGpp / 3型分泌機構 / 病原性 / 遺伝子発現 / 栄養枯渇 |
研究実績の概要 |
1.培地中グルタミン酸の消費パターンの解析:これまでグルタミン酸濃度を低下させた培地を用いて百日咳菌3型分泌機構(T3SS)の細胞外分泌タンパク質であるBsp22量が増加したことを示した。そこで増殖する際の培地中グルタミン酸濃度を測定し、百日咳菌のグルタミン酸の利用について検討を行った。その結果、カザミノ酸添加培地で培養した場合、アミノ酸枯渇後、グルタミン酸を主たる炭素源として利用することが明らかとなった。アミノ酸の枯渇によりT3SSは誘発されたが、その程度はグルタミン酸枯渇によるものより弱かった。 2.臨床分離株およびワクチン株を用いたグルタミン酸濃度低下によるT3SS誘発への影響:百日咳菌の各菌株におけるグルタミン酸枯渇による影響を検討した結果、全ての株で低グルタミン酸によるT3SSの誘発を認めた。 3.T3SS遺伝子の転写解析:百日咳菌のT3SS遺伝子群にはその装置およびエフェクターの遺伝子が含まれるbsc locusとこれらの発現を制御する遺伝子群であるbtr locusがある。btr locusにはこれら全ての遺伝子の転写に必須であるBtrSの遺伝子が含まれている。グルタミン酸およびppGppによる制御機構を明らかにする目的でbsc locusの遺伝子およびbtr locus遺伝子のmRNA量をqRT-PCRにより測定した。その結果、グルタミン酸の枯渇によりbsc locus遺伝子は顕著に増加していたが、btr locusにある遺伝子の転写量の変化は顕著ではなかった。一方、ppGpp欠損変異株においてグルタミン酸枯渇によりbsc locus遺伝子の誘発される傾向がみられ、これはタンパク質レベルでも確認された。 4.T3SSの発現におけるBvgASの役割:BvgASが不活性環境下T3SSの産生は消失し、グルタミン酸を枯渇によっても誘発されなかった。これらの結果よりT3SSの発現にはBvgASの活性化が不可欠であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題ではT3SSのグルタミン酸欠乏等の栄養枯渇により誘発される緊縮応答による百日咳菌病原性発現における役割を明らかにすることを目的としている。26年度において緊縮応答によるT3SSの誘発機構を解析する基礎的なデータを得る目的でT3SSを誘発する条件の検討および栄養枯渇条件におけるppGpp産生量の測定を中心として実験を計画した。 このうちT3SSを誘発する条件の検討した結果、グルタミン酸枯渇条件にはカザミノ酸の存在が重要であり、培地中アミノ酸を消費した後にグルタミン酸を主たる炭素源として利用することが明らかとなった。また、アミノ酸枯渇でも同様にT3SSの誘発が見られたが、グルタミン酸枯渇による応答はそれより高いものであった。 ppGpp産生量の測定は結果を得るに至らなかった。その理由として試薬などの有効利用を考慮して27年度に行う予定であったppGppによるTTSS発現調節機構の解析を優先させたことによる。また、本応答が菌株特異的なものではないことを立証する必要性から臨床分離株およびワクチン株を用いて栄養枯渇によるT3SSの誘発を先んじて示したことによる。 その結果、グルタミン酸枯渇によりT3SS装置およびエフェクター遺伝子を含むオペロンの転写量を増加させたが、レギュレーター遺伝子の発現量は有意な差を示さなかったことから、下流の遺伝子の転写の活性化がグルタミン酸枯渇による誘発の要因であることが明らかとなった。さらにグルタミン酸枯渇で緊縮応答欠損株中のT3SSの合成量が微量であるが上昇したことから、グルタミン酸枯渇によるT3SSの誘発に関わるppGpp以外の因子の存在が示唆された。 これまで得られた結果は百日咳菌のT3SSの誘発には宿主内でBvgASが活性化されるのみならず、栄養源枯渇によるシグナルが必要であることを示しており、さらに、ppGppが重要な役割を担っていることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた結果は、T3SSの高発現にはBvgASと共にグルタミン酸枯渇などの栄養枯渇が必須であり、ppGppがそれに関わっていることを示唆している。 そこで今年度はppGppの定量系の構築とその測定を行い、栄養枯渇によるT3SSの誘発にppGpp濃度の上昇が生ずることを示し、栄養源枯渇条下でのTTSS誘発が緊縮応答によるものかを明らかにする。 方法としては細胞内ppGpp産生量をOchiらの方法(J. Gen. Microbiol. 132:2621-2631. 1986)により測定する。各条件で培養した細菌細胞よりヌクレオチドを含む分画をギ酸で抽出し、凍結乾燥により濃縮する。ppGppを含む分画を濃縮するために昨年度購入した凍結乾燥機を用い、得られたサンプルはPartisil SAカラムを用いてHPLCにより定量を行なう。 ppGpp以外にグルタミン酸枯渇に対する応答に関与する因子の存在が示唆されたことから、同じヌクレオチド誘導体であり、様々な遺伝子の発現に影響を与えることが報告されているc-di-GMPの測定も行い、それらの役割を考察する。 一方、緊縮応答によって制御される因子を網羅的に解析する目的でプロテオーム解析を行い、緊縮応答が百日咳菌の病原性における緊縮応答の役割を考察する。
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