病原真菌Candida glabrataは、ヒト消化管に常在する酵母であるが、免疫の低下した患者において播種性の感染を引き起こす。C. glabrataは宿主体内で細胞外のステロールを取り込んで利用することが示唆されている。本研究では、宿主体内でステロール取り込みに関わる因子を同定することを目的とした。 遺伝的に近縁種であるSaccharomyces cerevisiaeの先行研究の結果から、ステロール取り込みに関わると予想される遺伝子の破壊株を作製した。遺伝子破壊株の解析結果より、ステロールトランスポーターAus1pおよび細胞壁マンノプロテインTir3pがステロール取り込みに必須であることを明らかにした。AUS1遺伝子破壊株は、マウス感染実験において臓器定着率すなわち病原性が低下することを見出した。また、AUS1およびTIR3の発現量は鉄欠乏条件で顕著に増加することを見出した。血液中の鉄イオンはトランスフェリンと結合しており、利用可能な鉄イオン濃度はきわめて低く保たれている。以上の結果より、C. glabrataは血流感染時にステロール取り込みが活性化されると考えられた。また、Aus1pは分裂時には娘細胞に局在しており、新しい世代の細胞において選択的にステロール取り込みを活性化していると考えられた。以上の結果より、AUS1とTIR3のみでステロール取り込みを活性化できると推測されたが、AUS1とTIR3遺伝子を強制発現させたC. glabrata株は、細胞外ステロールを取り込まなかった。この結果は、AUS1とTIR3以外にもステロール取り込み活性を調節する遺伝子の存在を示唆している。
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