研究課題/領域番号 |
26460543
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研究機関 | 独立行政法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
濱端 崇 独立行政法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 室長 (40311427)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | コレラ菌 / VBNC / 培養可能状態 / カタラーゼ |
研究実績の概要 |
1. コレラ菌マイクロコズムの作製とVBNC化 O1エルトール型コレラ菌N16961株を対数増殖期まで培養し、人工海水で洗浄した後、同液に10の7乗個/mlになるように懸濁し、4度、暗所に静置するコレラ菌のストック(マイクロコズム)を2週間毎に作製した。一連のマイクロコズムは2週間毎にPBSで10倍希釈系列を作製し、その0.1 mlをアルカリペプトン水3 mlに加え、24時間、37度で振盪し菌の増殖の有無を確認した。マイクロコズム原液でも菌の増殖が見られなくなったら、さらに10本同様に培養し、10本全て菌の増殖が陰性になったマイクロコズムをVBNC状態に入ったと判定した。マイクロコズムの作製およびVBNC化の状況は良好であり、現在はマイクロコズム作製後3~5週間の経過で順調にVBNC化が見られている。 2. FCVCの精製と同定 腸管上皮由来培養細胞HT-29を0.1 mm径のガラスビーズで破砕し遠心分離した上清の濾過液(FCVC粗抽出液)を段階的硫安沈殿により解析したところ、30%-50%飽和画分にVBNCコレラ菌を培養可能に転換する活性(以下転換活性)が見られた。この画分を透析後、陰イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびゲル濾過クロマトグラフィーにより分画し、転換活性を指標にFCVCをSDS-PAGEで単一バンドにまで精製した。質量分析の結果、このバンドはヒトのカタラーゼであることがわかった。 3. カタラーゼがFCVCであることの検証 上記の結果を確かめるため、HT-29細胞を破砕後超遠心により分画し、転換活性の局在を調べたところ、ほとんどが膜・オルガネラ画分に集中していた。これはカタラーゼがペルオキシソームに存在する事と矛盾しない。またsiRNAでカタラーゼ産生をノックダウンしたHT-29のFCVC粗抽出液でも、さらにカタラーゼ阻害剤を添加したFCVC粗抽出液でも、転換活性が激減することを確認した。これらのことからFCVC=カタラーゼであると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はFCVCの精製による純品化が順調に進み、質量分析の結果FCVCはカタラーゼである事が示唆された。またFCVCのHT-29細胞における膜分画への局在の確認、さらにノックダウンおよび阻害剤によるカタラーゼ特異的抑制実験による転換活性の大幅な減弱もこの結果を支持するものであり、FCVC=カタラーゼであると結論するに至った。本年度はFCVCの精製が達成目標であり、またFCVCが未知のタンパク質である可能性を考え、抗体を作製しそれを利用してVBNCのFCVCによる転換阻害実験を行いFCVCの特異性を確認する予定であったが、最終精製品がカタラーゼという既知のタンパク質であったため、市販の阻害剤およびsiRNAによるノックダウンによりHT-29細胞のカタラーゼのみを特異的に抑制する事により当初の目的である特異性の検定を行うことができた。したがって当初計画では平成27年度以降に行う予定であった「FCVC による VBNC コレラ菌の培養可能への転換機構の解明」に着手しており、過酸化水素の除去がコレラ菌のVBNC状態から培養可能状態への転換のひとつのスイッチがである事を示唆する事ができた。 またカタラーゼは市販品が入手可能であるので、さらに市販のカタラーゼを用いてVBNCコレラ菌の培養可能状態への転換を行ってみたところ、やはり転換が促進される事がわかった。そこでこれも平成27年度以降に行う予定であった「培養可能状態へと転換する際の遺伝子発現の解析」にも着手した。すなわち、VBNCコレラ菌にカタラーゼを作用させて培養可能状態への転換のスイッチを入れ、経時的にRNAを調整し、これをプローブとして用いたRNAアレイ解析により、培養可能状態への転換時の発現遺伝子の同定をすでに始めている。この点からも本研究は当初計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は研究計画にしたがい、VBNCから培養可能状態への転換に関与する可能性のある候補遺伝子を同定し、それらの遺伝子産物の特徴等を比較検討した上で、特に重要と考えられるN16961株の遺伝子を薬剤耐性遺伝子カセットを用いてノックアウトする。ノックアウト変異菌を同様の手法でVBNC化し、さらにカタラーゼを作用させて培養可能に転換できるか調べる。この実験はノックアウト変異菌のVBNC化に野生株N16961と同様に3~4ヶ月の期間が必要であることや複数の遺伝子をターゲットにする可能性が高いことを想定すると、少なくとも1年間は必要であると考える。この間、上記で得られたノックアウト変異N16961株を用いて、VBNCから培養可能への転換に関わる候補遺伝子の発現・制御機構を定量RT-PCRによりRNAレベルで、またウエスタン解析や蛍光免疫染色などによりタンパク質レベルで解析する。複数の遺伝子が候補となる場合は、それぞれの関連性も推定する。 上記のデータを総括的に検討し、コレラ菌におけるVBNCから培養可能への転換の分子メカニズムの全体像を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はFCVCの精製がメインであったため、試薬・消耗品および機器はすでに常備しているものが一部利用できた。またFCVCがカタラーゼである事が判明したため、その後に予定していた抗体作製も必要がなくなった。したがって本年度の支出は当初計画よりも大きく削減できたが、一方次年度においてVBNCコレラ菌の培養可能状態への転換に関連する候補遺伝子の同定をより詳細に行うため、VBNC状態から培養可能状態へと転換するコレラ菌から経時的にRNAを調整する実験をルーチン化して行い、またさらにアレイ解析を当初計画よりもスケールアップして行いたいと考え、本年度の削減分を次年度使用額として使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
RNAアレイ解析とその結果得られたVBNCコレラ菌の培養可能状態への転換に関連する候補遺伝子の解析に注力するため、研究補助員を一定期間雇用したいと考えており、その人件費・謝金として使用する。またアレイ解析の再現性の確認や、VBNCコレラ菌にカタラーゼを添加し培養可能状態への転換スイッチを入れた後のRNAサンプリングのタイミングの詳細な検討などに複数回アレイスライドや専用試薬を購入する予定であるため、その物品費としても使用する。
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