研究課題/領域番号 |
26460545
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
南保 明日香 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60359487)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Epstein-Barrウイルス / エキソソーム / miRNA |
研究実績の概要 |
新たな細胞間コミュニケーション媒体の1つとして注目されている細胞外小胞エキソソームは様々な細胞種から放出され、これらが内包する膜タンパク質、脂質、miRNA、mRNA等の様々な因子を標的細胞へ輸送することで多様な生理機能を示す。研究代表者はこれまで、ヒトγヘルペスウイルス科に属するEpstein-Barrウイルス(EBV)が潜伏感染したB細胞から放出されたエキソソームがカベオラ依存的エンドサイトーシスを介して非感染上皮細胞へ取り込まれ、細胞増殖およびICAM-1発現を増強することを明らかにした。 本研究では、エキソソームが誘導する標的細胞の形質変動の分子機構を明らかにすることを目的として、この過程に寄与するエキソソーム内包因子の同定ならびにその作用機序の解明を試みる。現在までに、次世代シーケンシングを用いた網羅的同定によって、EBV感染細胞由来エキソソーム特異的に内包される宿主およびEBV由来miRNAを複数同定した。現在、これらのmiRNAが、エキソソームを処理した標的細胞に運搬されるか否か、また、標的細胞の形質変動におけるこれらのmiRNAの役割について検討を行っている。 また、研究代表者はこれまで、非感染細胞と比較して感染細胞において、またI型と比較してIII型潜伏感染細胞において、エキソソーム産生量が増強していること、さらにこれと相関して、エキソソームの産生に関わる細胞内小器官である多胞体形成が増強していることを明らかにした。さらに、研究代表者は、ウイルス由来の責任遺伝子の1つとしてEBVがコードする膜タンパク質であるlatent-membrane protein (LMP)1を同定した。現在、この分子機構の解明を試みており、現在までに、多胞体形成の増強に関与するLMP1の分子内領域を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シーケンシングのデータを、研究協力者とともに検証し、EBV感染B細胞由来エキソソームに特異的に内包される宿主およびウイルス由来miRNAに関する既存の情報および遺伝子的特徴を考慮して、候補miRNAの絞り込みを行った。現在、エキソソームが誘導する標的細胞の形質変動における各種候補miRNAの関与について解析を進めている。 具体的には、各種候補miRNAがエキソソームを処理した標的細胞に運搬されるか否かをRT-PCRを用いて定量的解析を行っている。さらに、エキソソームが誘導する形質変動における候補miRNAの役割について、アンチセンスRNAを用いた検討を進めている。 また、III型潜伏感染におけるエキソソーム産生量の増強の分子機構の解明については、候補責任遺伝子の1つであるEBV由来LMP1に焦点を当てて解析を進めている。これまで、各種欠失変異体を用いて、多胞体形成に与える影響を検証し、LMP1のN末端領域およびC末端の細胞内情報伝達に関与する領域が重要であることを明らかにした。現在、LMP1が誘導する細胞内情報伝達系と多胞体産生に関与する分子群との関連について検討を進めている段階である。 以上、現在の研究進捗状況を考慮して、上記の自己評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は平成27年度科研費国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)に採択された。平成28年度6月より米国ウィスコンシン大学マディソン校マッカードル癌研究所において、Bill Sugden博士との共同研究として、以下の内容で研究を遂行する予定である。 1.引き続き、EBV感染細胞由来エキソソームに特異的に内包される宿主およびEBV由来miRNAが標的細胞に運搬されるか否かをSugden博士の研究室で開発したmiRNA定量系を用いて検証する。 2.1の解析結果から、エキソソームを介して標的細胞に輸送されることが確認されたEBV由来miRNAについて、BAC系を利用した欠失組換えEBVを用いて検討する。 3.1の解析結果から標的細胞に輸送されることが確認された宿主由来miRNAの標的遺伝子について、マイクロアレイを基盤とした方法を用いて同定する。さらに、各種miRNA発現を特異的に抑制するアンチセンスRNAを処理した感染細胞由来エキソソームが標的細胞の形質に与える影響を検討する。 4.各種miRNAが誘導する標的細胞の形質変動の作用機序について、細胞情報伝達分子群の関与に着目して解明を試みる。方法としては、各種蛍光バイオセンサーを発現した標的細胞に、組換えEBVを感染した、あるいはアンチセンスRNAを処理した細胞由来エキソソームを処理し、生細胞イメージングによって情報伝達分子の活性化に与える影響を評価する。 5.現時点において、EBV関連がんを予測・診断するための有効なバイオマーカーは未開発であることから、マッカードル癌研究所と連携している包括的腫瘍学センター、またウィスコンシン大学が擁する橋渡しサポート施設と連携することで、EBV感染細胞由来エキソソームに特異的に内包されるmiRNAのバイオマーカーとしての有用性について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に計画している「マイクロアレイを用いた標的細胞に輸送されることが確認されたエキソソーム由来miRNAの標的遺伝子の同定」の実験遂行のため、経費を節約したことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
経費の節約により生じた未使用額358,130円は、平成28年度に計画している、「マイクロアレイを用いた標的細胞に輸送されることが確認されたエキソソーム由来miRNAの標的遺伝子の同定」に用いる予定である。
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