研究実績の概要 |
ピロリ菌が、胃がんの発生に働くことはよく知られている。一方、EBウイルス(EBV)も10%程度の胃がんの発生に関与している。従来は、それぞれの微生物は、胃がんの発生において別個に働くと考えられてきた。ところが、EBV陽性胃がんの周囲に、ピロリ菌感染による萎縮性胃炎を認めることがあり、EBV陽性胃がんの形成に、ピロリ菌が協働している可能性が考えられた。そこで、胃上皮細胞を用いてピロリ菌感染によるEBV感染状態の変化を解析し、ウイルス-細菌間相互作用を観察した。 胃上皮由来AGS細胞にピロリ菌を7時間接触後、EBVを感染させ、48時間後にウイルスの潜伏感染遺伝子と溶解感染遺伝子の発現を、定量的RT-PCR法で測定した。またピロリ菌の細胞毒素であるCagAおよびVacAの遺伝子ノックアウトピロリ菌株やピロリ菌の菌体成分等を用いて、菌由来産物がウイルスの増殖に及ぼす影響を解析した。 ピロリ菌の感染により、EBV遺伝子(EBER1, EBNA1およびBZLF1)の発現量が5~10倍増加し、EBV感染の増幅が認められた。これより、ピロリ菌の細胞毒素が、感染増強に働く可能性を疑い、CagA(-)、VacA(-)、CagA(-)VacA(-)のピロリ菌を用いて解析を行った。しかし、菌の毒素産生とは無関係にEBV感染増強が認められた。次に、ピロリ菌のLPSを用いて同様な実験を行った。その結果、EBV遺伝子の発現量が3-6倍増加した。さらに、合成Lipid Aを用いた場合も、EBV遺伝子の発現量が増加した。 胃上皮細胞に接して増殖できる細菌はピロリ菌のみであることから、ピロリ菌のLPSは、胃上皮細胞の自然免疫応答を撹乱し、感染細胞でのEBVの増殖を促したと考えられた。ピロリ菌とEBVの二重感染が宿主細胞のシグナル応答を変化させ、EBV関連胃がんの発生を促進すると考えられた。
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