研究課題/領域番号 |
26460548
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 哲久 東京大学, 医科学研究所, 助教 (40581187)
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研究分担者 |
川口 寧 東京大学, 医科学研究所, 教授 (60292984)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 単純ヘルペスウイルス / リン酸化プロテオーム解析 / Us8A / 神経病原性 / 神経侵襲性 |
研究実績の概要 |
申請者らは、新規抗HSV剤やHSVワクチン開発の基盤構築のため、昨年に続き、HSV蛋白質新規リン酸化部位の生物学的意義の解明を実施した。今期、得られた主な知見は以下である。
HSVが属するα-ヘルペスウイルス亜科のゲノムは、β-およびγ-ヘルペスウイルス亜科にも保存されるUnique long (UL) 領域に加え、unique short (Us) 領域をもつ。Us領域には、a-ヘルペスウイルスに特異的な遺伝子がコードされており、その大部分はウイルス増殖には非必須である一方、生体内における効率的な病態発現能に寄与すると考えられている。最近、ヘルペス性角膜炎患者由来の複数のHSVゲノムを比較検討した研究において、Us8AがUs領域において最も保存性が高い遺伝子であることが見出された。本知見は、Us8AがHSVの病態発現に関与することを示唆する。しかしながら、Us8Aの病態発現における役割は不明であった。そこで、申請者らは、HSVマウスモデルを用いて、Us8Aおよび、超高感度リン酸化プロテオーム解析により同定されたUs8A Ser-61リン酸化の病態発現能における役割を解析した。その結果、Us8AはHSVの効率的な神経病原性および神経侵襲性を、Us8Aリン酸化は、少なくとも三叉神経節におけるウイルス増殖を司ることを明らかとした。申請者らは、本知見を国際学術誌であるJ. Virol. (in press)に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、(i) HSV病態発現能を制御するリン酸化現象のさらなる解明、(ii) 超高感度リン酸化プロテオーム解析によるリン酸化情報に基づくデータデースの量的・質的な拡充、の2点を目標とし、その2点ともに順調に推移している。
(i)に関しては、研究実績の概要の記載通り、Us8AというこれまでHSV病態発現能における役割が全く不明だったウイルス因子が、HSV病態発現因子であること、Us8Aのリン酸化制御機構が、少なくとも三叉神経節における効率的なウイルス増殖に関わることを解明した。Us8Aの変異は三叉神経節へのウイルス侵入あるいは三叉神経節におけるウイルス増殖を低下させることから、Us8Aの改変は、HSVの潜伏能を低下させたHSVワクチン開発への応用が期待させる。
(ii)に関しても、HSV-1感染上皮系細胞を、ラージスケールの超高感度リン酸化プロテオーム解析に供する準備が完了した。
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今後の研究の推進方策 |
申請当初の予定では、本年度は、以下の(i)~(iii)を解析予定であった。 (i) 平成26年度に拡充させたリン酸化プロテオーム解析の結果より、同定されたウイルス基質のリン酸化部位の中で、保存性や二次構造上の位置等から興味深いものに関して、アラニン置換(リン酸化を阻害する変異)およびグルタミン酸又はアスパラギン酸置換(リン酸化を模倣する変異)を導入したウイルスを作製する。 (ii) (i)において作製した組換えウイルスをマウス感染モデルに供し、病態発現能を制御するリン酸化部位をさらに同定する。 (iii) (ii)で同定されたHSV-1の病態発現能の制御に関与するリン酸化部位に関して、順次解析する。
これらの内、(i)に関係して、既に神経系細胞において、良好な結果が得られたラージスケールの超高感度リン酸化プロテオーム解析を、上皮系細胞にも水平展開させ、さらなるリン酸化情報の拡充を試みる。また、当初の予定にはなかったUs8Aのリン酸化制御と同様に、vUNGのリン酸化制御に関しても興味深い知見を得ていることから、(ii)に従い、より詳細な解析を継続する。Us8Aのリン酸化制御機構に関しても、(iii)に従い、その分子機序の解明を試みる。手法等の変更はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度11月頃、新規の機能性リン酸化部位をUNG内に見出した。本リン酸化部位は、UNGの酵素活性を司る中心的な制御機構であることが予想された。このため、マウス病態モデルを用いた高額の解析系の実施を塩基し、ラジオアイソトープによる酵素アッセイ系の確立を優先させることとなった。本アッセイ系は、一からの確立が必要であり、コスト的には低く抑えられ、次年度使用額が生じた。しかしながら、この変更により、本研究の最終目標であるHSV増殖および病態発現を司るリン酸化部位の同定を実現できる可能性が高まっており、妥当な研究計画の変更であると考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、当初の予定になかったラジオアイソトープによる酵素アッセイ系の多用が必要となったため、ラジオアイソトープの購入に約10万円、その後のマウス病態モデルにおける病態発現能の解析に約40万円が必要である。加えて、これらの最新の動向調査のための学会参加に、約30万円も必要となる。そして、一連の知見の公表のため、英文校閲費や論文投稿費として、約10万円が必要となる。
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