研究課題/領域番号 |
26460548
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 哲久 東京大学, 医科学研究所, 助教 (40581187)
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研究分担者 |
川口 寧 東京大学, 医科学研究所, 教授 (60292984)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | HSV / vUNG / Conserved Serine / リン酸化プロテオーム解析 |
研究実績の概要 |
申請者らは、新規抗HSV剤やHSVワクチン開発の基盤構築のため、昨年、一昨年に続き、HSV蛋白質新規リン酸化部位の生物学的意義の解明を実施した。今期、得られた主な知見は以下である。
生命の設計図ともいえるDNAの遺伝情報を正確に保持することは、ほぼ全ての生物にとって重要である。ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)は、DNAに誤混入したウラシルを取り除くため、必須な核酸代謝酵素であり、多様な生物に広く保存される。申請者は、超高感度リン酸化プロテオーム解析により、HSV蛋白質におけるリン酸化部位を新たに約300ヶ所同定した。これらのリン酸化部位の内、全てのヒト・ヘルペスウイルスに保存される部位は、viral UNG (vUNG)の新規リン酸化部位のみであった。本リン酸化は、vUNGの酵素活性に極めて重要であり、マウスモデルにおける効率的なHSV病態発現にも必要であった。そして、我々が同定した本リン酸化部位は、塩基配列情報が公開されている全てのUNGにも保存されており(以下、Conserved Serineと記載)、基質であるウラシルとヒトUNG(hUNG)の共結晶解析より、加水分解反応における吸核反応の開始部位と考察されたHistidineと極めて近接していた。
現在、Conserved SerineのDNA情報の維持機構におけるさらなる知見の集積を試みている。また、上述の通り、vUNGの新規リン酸化修飾は、HSVの病態発現に関与することから、本リン酸化制御の詳細な解明は、抗HSV剤開発の糸口となることも期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(i) HSV病態発現能を制御するリン酸化現象のさらなる解明、(ii) 超高感度リン酸化プロテオーム解析によるリン酸化情報に基づくデータベースの量的・質的な拡充、の2点を目標とし、その2点とも計画当初の目標をほぼ達成していることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
(i)に関しては、研究実績の概要の記載通り、vUNGのリン酸化制御機構の解明に至った。また、本リン酸化部位は、現在までに同定されているウイルス蛋白質のセリン・スレオニンリン酸化部位の中で、唯一全てのヒト・ヘルペスウイルスに保存されていることからも、その重要性が伺われた。本研究課題では、少なくとも3つの機能的新規リン酸化部位の同定を目標としていたことから、UL12、VP26、Us8Aに加え、vUNGの新規リン酸化部位が見出されたことから、目標は十分に達成されたと考えられる。
(ii)に関しても、HSV-1あるいはHSV-2感染上皮系細胞を、ラージスケールの超高感度リン酸化プロテオーム解析に供し、その新規リン酸化情報を、大幅に拡充できた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究より、HSV蛋白質の機能的リン酸化部位が、新たに4つ解明された。これらの内、Us8 Ser-61のリン酸化に関しては、HSVがコードするviral specific protein kinase(PK)であるUs3が、上流PKとして位置することが明らかとなっているが、他の3つのウイルス蛋白質UL12、VP26、vUNGに関しては、上流PKは不明なままである。これらの上流PKは、新規抗HSV剤の標的分子候補となりうることから、さらなる解析の継続が望まれる。上流PKの探索には、基質のリン酸化を簡便かつ敏速に検出するシステムの構築が望ましい。しかしながら、一連のリン酸化の検出には、質量解析が使用されたことから、まずPhos-tag SDS-PAGE解析や抗リン酸化抗体をもちいた解析などで、簡便かつ敏速にUL12、VP26、vUNGのリン酸化を検出可能とすることが、今度の研究には必要であると考えれられる。
また、これらのリン酸化部位は、マウスモデルにおける病態発現にも関与が認められたことから、ワクチン株のプラットフォームの作出への貢献も期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年12月頃、HSVがコードするUNG(vUNG)のリン酸化制御が、マウス脳内におけるウイルス排除のみに寄与することを見出した。従来の知見では、vUNGは宿主がコードするUNG(hUNG)の活性の低い組織全域、すなわち末梢神経系と中枢神経系の両者におけるウイルス増殖に関与すると考えられていた。我々の知見を確認するため、さらに多くのマウス個体を解剖し、個々の個体での解析が必須となった。周知の通り、神経組織の解剖には莫大な時間が必要であるため、研究全体の進捗に遅延が余儀なくされた。この結果、次年度使用額が生じてしまった。しかしながら、一連の詳細な解析の結果、vUNGが中枢神経系のウイルス排除のみに関与する分子機構が明らかとなりつつある。本知見は、本申請課題の価値を高める重要な基礎的知見であると考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、さらに神経組織の解剖を継続するため、動物実験の費用として、約50万円が必要である。加えて、関連の最新の動向調査のための学会参加に、約30万円も必要となる。そして、最終的に学術論文として発表するために、英文校閲費や論文投稿費として、約20万円も必要となる。
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