本研究では、HIV-1感染細胞内におけるコア構造体の崩壊メカニズムについて、(1)HIV-1 CAコア崩壊促進因子:hCPSF6-375分子および(2)HIV-1 CAコア崩壊制御因子:Maternal Embryonic Leucine Zipper Kinase (MELK)分子の2つの宿主因子の機能解析を通じて理解を深めることが目的である。平成28年度は、MELKのHIV-1 CAコア崩壊リン酸化制御の詳細な解析を特に重点的に進めた。具体的には、前年度までに同定したMELKのリン酸化標的部位であるキャプシドSer-149残基のリン酸化プロセスについて、恒常的リン酸化変異体(S149E)だけでなく非リン酸化変異体(S149A)も用いて解析をおこなった。その結果、どちらの変異体もコア崩壊制御不全に陥ることがわかった。このことは、適切なコア崩壊制御メカニズムには、MELKによるS149残基の段階的リン酸化プロセスが重要であることを示唆している。さらにはコア崩壊不全により1型インターフェロンの誘導が認められたことから、適切なコア崩壊に伴うウイルスDNA合成プロセスが行われることにより、ウイルスDNAを外来性DNAとして認識される内因性免疫システムから逃避していることが示唆される。このことは、感染初期過程におけるウイルスコア崩壊制御機構がHIV感染細胞の生存戦略に必須であることを示唆するものである。
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