研究課題
本課題ではHTLV-1感染病態(ウイルス複製と細胞増殖)におけるTaxとHBZの役割分担とその制御機構を解析し、病原性発現機序解明に向けた新知見を得る事を目的としている。平成26年度は特にHBZとTaxの細胞周期依存的発現の意義に関して解析を進めた。がん抑制タンパクであるRbは細胞周期の制御に重要な役割を持つが、HBZと相互作用することを見出した。HBZはRbとB pocket依存的に結合することによりE2F-1とともに複合体を形成する一方で、RbとHDAC3の相互作用を阻害した。これらの所見は、HBZがE2F-1に依存する遺伝子転写の活性化に関与することを示唆していた。実際、HBZトランスジェニックマウス(HBZ-Tg)由来のCD4陽性T細胞では、E2F-1標的遺伝子の発現が亢進しており、細胞周期およびアポトーシスの促進を認めた。同様の遺伝子発現変化は、レトロウイルスベクターにてHBZを導入したマウスCD4陽性T細胞でも観察され、細胞周期解析にてG1/S期移行が早められることも明らかになった。以上の結果から、HBZはRbとの結合を介して機能を抑制することで細胞周期のG1/S期移行を促進する作用を有していると考えられる。TaxはしばしばHBZと同一の細胞因子を標的とするが、Rbとも結合することを確認した。ヒト胎児腎細胞株であるHEK293FT細胞にてHBZおよびTaxを共発現させると、HBZはTaxとRbの結合を阻害した。TaxおよびHBZの発現は各々HTLV-1の5’LTRと3’LTRにより活性化されるが、細胞周期により異なる制御を受けていることが示唆されている。これらの所見より、HBZとTaxは異なるタイミングでRbと結合し、細胞周期を複雑に脱制御している可能性が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は当初の目的であったHBZとTaxの細胞周期依存的発現の意義について解析を進め、宿主の細胞周期制御因子であるRbに着目し、これらと共に結合することを見出した。これらの結合が細胞周期に及ぼす影響についてさらに詳細に解析する目的にて、Tax発現を蛍光タンパクによりモニター可能なATL細胞株を樹立した。平成27年度には本細胞株を用いてsingle cell 解析を行う予定としており、TaxおよびHBZがそれぞれ影響を及ぼす細胞周期関連遺伝子を探索することが可能となった。
1. HBZとTaxの細胞周期に依存する機能と病原性における役割ATL患者、HTLV-1感染者由来のプライマリーCD4陽性T細胞における、宿主遺伝子とTax、HBZの発現をsingle cell realtime PCRにて評価する。また、Tax発現モニターATL細胞株を用いてsingle cell realtime PCRを行い、細胞周期依存的発現解析を行い、病原性、発がんにおける役割について検討する。2. 遺伝子改変マウスの表現型解析HBZ-TgおよびTax-Tg由来プライマリーCD4陽性T細胞を分離し、上記single cell realtime PCRの結果を基に細胞周期関連遺伝子の発現を解析する。
平成26年度には、当初HTLV-1感染細胞から細胞周期毎にsingle cellを分取し、定量PCRを行う予定であったが、TaxおよびHBZの発現を基に細胞を分離することとした。そのためTax発現をモニター可能なATL細胞株を樹立したため、定量PCRは平成27年度に行う予定とし、そのための研究費を繰り越す必要があった。
Single cellの分離にはベクトンディッキンソン社製FACSAriaにてTax発現細胞集団を分取した後に、フリューダイム社製のC1システムでSingle cellの分離からcDNA合成を行う。また得られたcDNAは同フリューダイム社製BioMarkにて定量PCRに供する。これら一連の試料調整とPCR用の消耗品に使用する。
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