研究課題
本課題ではHTLV-1の感染動態(ウイルス複製と細胞増殖)及び病原性におけるTaxとHBZの役割分担とその制御機構を解明する事を目的としている。過去の報告から、TaxはT細胞受容体(TCR)を介した刺激を活性化することが知られているが、本研究でもHBZがTCR刺激に対して促進的に作用し、T細胞の増殖を亢進することを見出した。昨年度の研究にて、HBZが免疫抑制性受容体T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains(TIGIT)を感染細胞表面に誘導し、宿主免疫からの回避に作用していることを報告した(Yasuma et al. PLoS pathogens, 2016)が、TIGITは元来TCRシグナルを抑制する機能を有しているため、TCR-TIGITシグナルの下流がHBZによって抑制されていることが示唆された。さらなる解析の結果、HBZがT細胞に特異的に発現するthymocyte selection associated(THEMIS)と結合することで、その局在を核から細胞質に移し、さらにTHEMISとSHP-2の複合体がTIGITやPD1のITIMモチーフと結合するのを阻害することが判明した。SHP-2のITIMモチーフからの解離により、TIGIT、PD1を介した細胞増殖抑制シグナルは阻害され、結果としてT細胞の増殖が活性化されると考えられる。この研究成果はPLoS Pathogens誌に発表した(Kinosada et al. PLoS pathogens, 2017)。
2: おおむね順調に進展している
ATL細胞株MT-1及びKK-1では、約2-3%の細胞がTaxを発現していることが判明し、Taxに反応してEGFPを発現するレポーターを導入した細胞を樹立した(各々MT1GFP、KK1GFPと命名)。タイムラプス解析によりTaxの発現は一過性であり約20時間で消失することを見出した。一方、Taxのノックダウンにより全ての細胞が細胞死に至ることから、Taxは感染細胞の生存に必須であることが示唆された。MT1GFP、KK1GFPにおける網羅的遺伝子発現解析、及びMT1GFPにおけるシングルセル発現解析を終了しており、概ね順調に経過していると考える。
Tax発現をEGFPで標識するATL細胞株MT1GFP及びKK1GFPを用いた遺伝子発現解析により、Tax発現細胞とHBZ発現細胞では、遺伝子発現プロファイルが全く異なることが判明した。一過性のTax発現はMT1GFP細胞のアポトーシス耐性獲得に必須であることから、その分子機序に関してシングルセルレベルの解析を進める。さらに、より多くの検体を用いた解析が重要であり、ATL細胞株以外の検体でも発現解析を行う。
HTLV-1感染細胞におけるTaxとHBZの役割分担とその制御機構の解明を目的としてきたが、平成28年度にTax発現をEGFPで標識するATL細胞株を樹立し観察したところ、Taxの発現は一過性であり、HBZの発現と相補的であることが判明した。また、TaxはATL細胞のアポトーシス耐性獲得に必須であった。研究遂行上この現象に関して、より多くの検体を用いた解析が重要であり、期間を延長する必要が生じた。
ATL細胞株、HTLV-1感染細胞株、新鮮ATL細胞、HAM患者末梢血単核球等、多数検体におけるシングルセルレベルでのTax、HBZの発現解析、トランスクリプトーム解析を行い、発現プロファイルを比較する。研究結果をまとめ、論文を作成、発表する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
PLoS Pathogens
巻: 13 ページ: e1006120
10.1371/journal.ppat.1006120.
Cancer Research
巻: 76 ページ: 5068-79
10.1158/0008-5472.CAN-16-0361
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 27150
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Retrovirology
巻: 13 ページ: 16
10.1186/s12977-016-0249-x