研究課題
フラビウイルスの増殖に必要な宿主因子のスクリーニングによって同定されたESCRT因子群について、単独または複数のsiRNAの組み合わせによるノックダウンのスクリーニングを行い、ウイルスの増殖に必須なESCRTサブユニットの同定と、各サブユニットの機能相補性について検討した。その結果、TSG101単独でのノックダウン、CHMP4A/CHMP4B/CHMP4C又はCHMP2A/CHMP2B/ CHMP3を同時にノックダウンした細胞においてのみ、著しいウイルス増殖能の低下を確認した。また、光電子相関顕微鏡観察、免疫電子顕微鏡観察を行いノックダウンした細胞にみられる複製オルガネラ近辺の膜形態の変化、及びESCRT因子の局在について解析したところ、ESCRT因子群が複製オルガネラ辺縁部に局在することを確認し、さらに、ESCRTをノックダウンした細胞の小胞体上に数多くの不完全なウイルス粒子様像を検出した。さらに、増殖が著しく抑えられたノックダウンの組み合わせに対して、各種変異体の入れ戻し実験を行い、ウイルスの増殖に必要な宿主因子間相互作用を調べたところ、TSG101-PTAP、CHMP2-CHMP4、CHMP-生体膜の相互作用の重要性は確認できたものの、TSG101-Ub、CHMP4-ALIX、CHMP2-VPS4などの相互作用の重要性は確認できなかった。本実験より、フラビウイルスの増殖において、一部のESCRT因子群が極めて重要な役割を担っていること、また、その機能の一端は小胞体近辺の複製オルガネラでみられるウイルス粒子形成にあることが明らかになった。これまでにレトロウイルス粒子形成、MVB形成、細胞質分裂などESCRTが関与する様々な膜動態が報告されているが、フラビウイルスの粒子形成に必要なESCRT因子群はそれらとは異なったメカニズムにおいて機能している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
定量プロテオミクス解析によって同定されたESCRT蛋白質がウイルス複製複合体形成時の膜動態にどのように関与するか、優勢変異体発現や、siRNAによるノックダウンがデングウイルス、及び日本脳炎ウイルスの増殖に影響するかどうか調べ、その分子機構を明らかにし、また、ESCRT蛋白質とウイルス蛋白質との相互作用部位を明らかにし、創薬の標的となりうる分子間相互作用の生化学的特徴を明らかにするというのが、H26年度までの当初の計画であり、これまでに、ノックダウンによるウイルス増殖に必要なESCRT因子の同定、また、ESCRT因子群のウイルス粒子形成時における膜変形での役割、そして、必要な分子間相互作用を明らかしており、おおむね研究計画通り順調に進行している。
今後、研究計画通り、申請者らのプロテオミクス解析によって感染特異的に複製オルガネラにリクルートされるオートファジー因子の解析を進める。種々のATG-KO細胞を用い、感染によって誘導されるオートファゴソーム様構造物とウイルス複製オルガネラとの関係を、種々のオルガネラマーカーの局在、又は、構造物の生化学的特徴な特徴を詳細に解析することによって明らかにする。また、申請者らがこれまでに明らかにしている、FIP200-/-細胞、又はp62-/-細胞にてフラビウイルスの増殖が著しく減弱しているというデータをもとに、各種変異体入れ戻し細胞を作出し、ウイルス増殖におけるこれら蛋白質の機能解析を通じて、ウイルス複合体形成時におけるオートファジー誘導の生理学的意義を明らかにする。
一部実験が予定よりも遅れた為に、当初購入予定であった試薬を購入しなかったため。
H27年度早々に、予定していた実験を行えるよう目的の試薬を購入するために使用する計画である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Structure
巻: 22(1) ページ: 47-58
10.1016/j.str.2013.09.023