研究課題
HIV-1 Vifの発現はウイルス複製にとってcriticalであり、APOBEC3Gとの拮抗はウイルスの変異・適応に影響を及ぼす。Vif低発現変異体(NL-tac)は野生株(NL4-3)の2%程度のVif発現量であるが、昨年度、NL-tacのH9細胞(APOBEC3G高発現細胞株)における馴化実験を行った。得られたNL-tac馴化型ウイルス(NL-tacad1)は、vifコード領域内での変異獲得によりVif発現量を増加(NL4-3の20%程度)させた。本年度は、NL-tacad1および別のVif低発現変異体(NL-gat)のH9細胞での馴化実験を行い、APOBEC3G抑制下におけるウイルスの適応過程を解析することを目的とした。NL-tacad1感染H9細胞の長期培養により、増殖が促進された馴化型ウイルスが出現し、馴化型ウイルスクローン(NL-tacad2)を2種獲得した。NL-tacad2は、NL-tacad1よりも複製能が向上しており、NL-tacad1では存在しなかったEnvの1アミノ酸変異が2種のNL-tacad2クローンに共通して認められた。現在、NL-tacad1とNL-tacad2のVif発現量の比較、および、NL-tacad2で認められたEnvの1アミノ酸変異による増殖促進の有無について解析を進めている。一方、NL-gatのH9細胞における馴化実験を通じて4種の馴化型ウイルスクローン(NL-gatad)を獲得した。4種のNL-gatadは、いずれもNL-gatよりも高い複製能を示し、Vif発現量も増加していた。4種のNL-gatadに共通して認められた変異は、vprコード領域内でのストップコドンの出現とEnvの1アミノ酸変異であった。現在、NL-gatadで見出された変異が、Vif発現量や複製能に及ぼす影響を解析中である。以上の結果から、Vif低発現変異体(NL-tacとNL-gat)はAPOBEC3G抑制下において、まずある一定レベルのVif発現量を回復する変異獲得により複製能が改善され、その後Env変異等によりさらに適応していくものと推測された。ウイルスの極めて合目的的な適応過程が実証されたと考えられる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件)
Frontiers in Microbiology
巻: 7 ページ: 1211
10.3389/fmicb.2016.01211.
巻: 7 ページ: 1655
10.3389/fmicb.2016.01655.