研究課題/領域番号 |
26460561
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
姫田 敏樹 金沢医科大学, 医学部, 准教授 (80340008)
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研究分担者 |
大桑 孝子 金沢医科大学, 医学部, 助教 (20460347)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Saffoldウイルス / 急性膵炎 / 感染受容体 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、SAFV感染受容体の同定を試みた。また、1型糖尿病患者におけるSAFV感染(持続感染)の追跡調査は検体入手困難となったため、対象を膵炎にまで拡大し調査した。 SAFV感染受容体同定の試みでは、これまでに7つの遺伝子を共発現させた場合にSAFVの感受性を獲得する可能性が示されていたが、安定した感受性獲得には至らず、責任遺伝子を絞り込むには至っていない。最適な分子比のコントロールが不十分である可能性や、安定した感染に必要な因子が含まれていない可能性も考えられることから、更なる検討が必要である。 1型糖尿病剖検例におけるウイルス抗原の検出および患者末梢血からの遺伝子検出によりSAFV感染を疑う結果が得られているが、持続感染についてはin vitroにおける証明に留まっている。代わりに膵臓への病原性を明らかにする目的で急性膵炎患者を対象として解析したところ、手足口病様症状を呈した後に急性膵炎を発症した、他のウイルス感染が否定的な小児の便からSAFV遺伝子が検出され有意な抗体価の上昇が認められた(Ito et al. Jpn J Infect Dis. (in press))。この結果は、SAFVの膵臓病原性を示唆するものであり、より大規模な調査が必要であると考えられた。ただしこの検体からウイルスを分離培養することは出来なかった。SAFVは、分離培養が困難であることが知られている。そこで、より効率的な分離培養法を確立するために、ウイルス蛋白の性状を解析する目的で発現系による解析を行ったところ、カプシド蛋白であるVP1が極めて分解されやすいこと、および、未知のウイルス蛋白が合成されていることを示す結果が得られた。これらの機序を詳細に解明することで、分離培養に適した細胞の選択や、添加剤の検討などが可能になることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SAFV感染受容体同定の試みでは、7つの候補遺伝子の発現系を用いて、責任遺伝子の絞り込みを進めているが、安定した感受性獲得のための条件を検討中であり、感染受容体遺伝子の同定には至っていない。また、エンテロウイルス感染受容体同定に倣い、SAFV感受性細胞のゲノムを非感受性細胞に導入し感受性を獲得した細胞をクローニングすることで受容体遺伝子を同定する方法も検討しているが、こちらも同定には至っておらず、当初の目的からはやや遅れていると判断される。 他方、疫学的解析では、1型糖尿病症例の増大を予定していたが、剖検例を含む検体は入手が困難となったため、対象を急性膵炎にまで拡大し、膵臓に対する病原性の調査を進めた。その結果、急性膵炎を発症した小児の便からSAFV遺伝子が検出され有意な抗体価の上昇も認められ報告した(Ito et al. Jpn J Infect Dis. (in press))。これは、膵炎におけるSAFV感染の関与を示しており、SAFVの膵臓病原性を示唆するエビデンスの集積という観点から、おおむね進展していると考えられる。また、ウイルス分離条件改善を検討するための実験から、ウイルスのカプシド蛋白VP1の不安定性と未知のウイルス蛋白(read-throughにより合成される新たなLeader蛋白と想定される)の存在を示唆するデータが得られた。この結果からは、SAFVの病原性をウイルス学的観点から解明するための新たな知見が得られることが期待される。さらにVP1不安定性の機序が解明されれば、その分解を抑制しウイルス増殖しやすい(細胞変性効果の現れやすい)培養条件を設計することで受容体同定をより効率化させることも期待される。 以上より、当初の目的からはやや遅れているものの、予期していなかった新たな知見が得られ、SAFVの病原性解明としては、おおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
感染受容体の同定については、引き続き最適条件を検討しつつ責任遺伝子の絞り込みを試みる。また同時に、感受性細胞ゲノム導入法による受容体発現細胞のクローニングも継続し、感染受容体同定を目指す。疫学的解析についても、引き続き検体の提供をお願いして症例数の増加、エビデンスの集積を目指す。 これらに加え、新たに明らかとなったVP1の不安定性についてその制御機序を解析するとともに、未知のウイルス蛋白の性状および機能の解析を進め、ウイルス学的観点からの病原性解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染受容体の同定がやや遅れていることにより、購入予定であった初代培養細胞等の購入に至らなかったため一部次年度へと持ち越しになった。また、ウイルス抗原検出の感度向上のための新たなVP1に対するモノクローナル抗体と、ウイルス感染細胞における新規ウイルス蛋白検出のための抗血清を現在作製中であり、作製過程が年度を跨いでしまったため、年度内に予算を執行することが出来なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
一部は、研究の進捗状況に合わせて随時、細胞、トランスフェクション試薬等の消耗品費として使用する。また、抗体作製に関しては現在免疫中であり、抗体価の上昇が確認されてきたため、そのまま継続して実施しその費用として使用する。
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