研究課題/領域番号 |
26460562
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
畠山 大 徳島文理大学, 薬学部, 講師 (20514821)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / ヌクレオタンパク質 / アセチル化修飾 / GCN5 / pCAF |
研究実績の概要 |
これまでの研究により,インフルエンザウイルスの感染や増殖過程において,ウイルス蛋白質が多様な修飾を受け,ウイルスの複製に重要な働きを担っていることが報告されている.本研究において,これまでに報告のあったNS1蛋白質以外にアセチル化修飾を受けるウイルス蛋白質を発見した. はじめに,培養細胞にインフルエンザウイルスを感染させ,抗アセチル化リジン抗体を用いたウェスタンブロッティングにより,アセチル化修飾を受ける蛋白質の網羅的探索を行った.その結果,感染後8時間からアセチル化修飾を受ける蛋白質を見出した.分子量から,インフルエンザウイルス蛋白質Nucleoprotein(NP)であることが予想された.そこで,NPに対する抗体を用いて行った免疫沈降サンプルに対する抗アセチル化リジン抗体によるウェスタンブロッティングにより,このアセチル化を受けるタンパク質はNPであることを確認した.さらに,NPを単独で培養細胞に強制発現させてもアセチル化を受けることが示され,NPは他のウイルス蛋白質に依存することなく,宿主細胞が持つ酵素によってアセチル化修飾を受けることを明らかにした.NPにアセチル化を施す酵素を同定するため,RI標識されたアセチルCoAを用いた生化学的実験の結果,NPは互いに同じファミリーに属するGCN5とpCAFによって特異的にアセチル化修飾を受けた.また, RNP複合体を形成するNPにおいてもアセチル化修飾が観察された.試験管内のNP組換え蛋白質においてはGCN5とpCAFの阻害剤であるアナカルジン酸,ガルシノール,エンベリンによって,また,培養細胞においてはGCN5とpCAFのRNA干渉によって,NPに対するアセチル化修飾が有意に減少した.以上より,インフルエンザウイルスNPにアセチル化修飾を施す酵素は,宿主細胞由来のGCN5およびpCAFであることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アセチル化修飾を受ける新規のインフルエンザウイルス由来タンパク質を同定したけではなく,その反応を媒介する酵素を,様々な手法によって特定することに成功した.各ヒストンアセチル化酵素の組み換えタンパク質と放射性同位体を用いた酵素実験,培養細胞にウイルスを感染させたサンプルによる生化学的実験など,互いに異なるアプローチでありながら ,すべての実験系においてNPに対するアセチル化修飾を観察することに成功した.細胞由来のヒストンアセチル化酵素が今回の研究のターゲットであるが,培養細胞に対するRNA干渉によるこれらの酵素の発現抑制も順調に進んでおり,今後の更なるデータの蓄積が期待される.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究で,インフルエンザウイルスの感染の過程でNPがアセチル化修飾を受ける「現象」を捉えることに成功した.今後は,このアセチル化修飾が,インフルエンザウイルスの増殖過程,および病原性発現に対して,どのように寄与しているかを詳細に解析しなければならない. そこで,まず質量分析を用いて,NP分子内のどのリジン残基がアセチル化修飾を受けるのかを確認する.現在,NPに含まれる20個ほどのリジン残基から,アセチル化の標的となり得る14個のリジン残基に絞り,そのリジン残基を含む周辺10アミノ酸からなるペプチドを作成し,質量分析を行っている最中である.これで候補となるリジン残基が特定された後は,そのリジン残基を変異させた組み換えタンパク質を作成して,リジン残基のアセチル化修飾が消失するかを確認する.さらに,同様のアミノ酸変異を含む組み換えウイルスを作成し,その変異による病原性の変化の解析などを行い,NPのアセチル化修飾とインフルエンザウイルスの病原性との関連を詳細に解析する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
5000円弱の残高が生じたが,期日までに使い切る事務処理を失念したため.
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次年度使用額の使用計画 |
この残額も今年度と同様,主に物品費や学会旅費などに使用する.
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