研究課題
これまでの研究により,インフルエンザウイルスのRNAゲノムと相互作用するヌクレオプロテイン(NP)がアセチル化修飾されることを見出し,このアセチル化修飾がウイルスの増殖に関与することが予想された.そこで,①質量分析により,ウイルス感染に伴ってアセチル化を受けるリジン残基の同定を行ったところ,K31,K90,K103,K184の4箇所のアセチル化候補リジン残基を同定した.②次に,NPに対してアセチル化修飾を施す酵素の同定を行った.その結果,宿主細胞のアセチル化酵素pCAFおよびGCN5が,NPをアセチル化することを試験管内の生化学的実験により明らかにした.③そして,これらの酵素が実際に細胞内でNPをアセチル化するのかを確認するため,pCAFおよびGCN5の発現量をRNA干渉によりノックダウンした.その結果,これらの酵素の発現抑制により,NPに対するアセチル化レベルも有意に減少することを示し,細胞内でもNPはpCAFやGCN5によってアセチル化されることを証明した.④さらに,pCAFのノックダウンによりウイルスの遺伝子発現レベルは上昇し,逆に,GCN5のノックダウンによりウイルスの遺伝子発現レベルは下降する,という大変興味深い結果を得ることに成功した.pCAFとGCN5は同じGNATファミリーに属し,酵素活性部位の立体構造は非常に類似性が高いものの,酵素活性部位以外の部分の構造の違いにより,アセチル化するリジン残基に選択性がある可能性がある.これらの研究成果により,申請者は2015年度の日本薬学会中四国支部奨励賞を受賞した.
2: おおむね順調に進展している
インフルエンザウイルスのヌクレオプロテイン(NP)においてアセチル化修飾を受けるリジン残基の同定,NPのアセチル化を行う酵素pCAFとGCN5の同定,その酵素の細胞内での機能解析と,研究成果が順調に集積している.また,現在もpCAFとGCN5の過剰発現系の構築と解析,および東大医科研との共同研究によるアセチル化標的リジン残基のミュータントウイルスを用いた感染実験やなども順調に進展しており,今後の更なるデータの蓄積が期待される.
今後は,(a) 上記①で示したリジン残基を変異させたウイルスを用いた感染実験,(b) 上記③の実験とは逆に,細胞内のpCAFとGCN5の過剰発現による遺伝子発現レベルの変化,(c) pCAFとGCN5をそれぞれ過剰発現させた感染細胞から濃縮したNPでの質量分析によるアセチル化リジン残基の同定を行って,ウイルス感染に伴うNPアセチル化の生物学的意義の解明し,今年度中の論文採択を目指す.
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
BIOPHYSICS
巻: 11 ページ: 1-5
Journal of Experimental Biology
巻: 218 ページ: 1699-1704
10.1242/jeb.120329
http://p.bunri-u.ac.jp/lab08/