研究課題
本研究では,宿主細胞のヒストンアセチル化酵素(HAT)によるインフルエンザウイルスのヌクレオプロテイン(NP)に対するアセチル化修飾が,ウイルスの転写効率を変化させることを発見した.始めに,ウイルスの感染・増殖過程においてアセチル化修飾を受けるタンパク質を網羅的に解析するため,感染細胞に対して抗アセチル化リジン抗体を用いたウェスタンブロッティングを行ったところ,インフルエンザウイルスNPがアセチル化修飾を受けることを見出した.生化学的実験により,NP組換えタンパク質をアセチル化する酵素は,宿主細胞が持つHATのpCAFとGCN5であった.さらに,ウイルス粒子内においてNPはRNA合成酵素複合体・ウイルスのゲノムRNAと相互作用してリボヌクレオプロテイン複合体(RNP)を形成しているが,NP単体だけでなく,RNPを形成するNPもpCAFとGCN5によってアセチル化を受けた.次に,宿主細胞内のpCAFとGCN5の発現量をRNA干渉によって抑制し,それに伴うウイルスの転写活性の変化を解析したところ,宿主細胞内でのNPへのアセチル化修飾は抑制された.そして,興味深いことに,ウイルスの転写レベルは,pCAFのRNA干渉により有意に増加し,逆にGCN5のRNA干渉により有意に減少した.NP組換えタンパク質を用いた質量分析の結果,pCAFによりK31がアセチル化され,GCN5によりK90がアセチル化されていた.このアセチル化標的リジン残基の差異が,pCAFとGCN5のRNA干渉に伴うウイルス転写レベルの変化の要因であると考えられる.以上より,宿主細胞のpCAFとGCN5は,インフルエンザウイルスNPをアセチル化し,ウイルスの転写制御に関与することが示唆された.本研究成果は,現在論文として投稿中である.
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Biology Open
巻: 5 ページ: 1869-1873
10.1242/bio.021634
http://p.bunri-u.ac.jp/lab08/index.html