研究課題
慢性炎症は、代謝症候群やがん、その他多くの病態と密接に関係する。p38alpha MAPキナーゼ(MAPK)が関与するシグナル伝達経路が炎症制御に関わることは知られているが、肥満による慢性炎症への関与や役割は明らかではない。これまで我々は、血球系細胞でp38alpha遺伝子を欠くコンディショナルノックアウトマウスを作成し、肥満による慢性炎症モデルで血球系細胞のp38alphaの役割を解析してきた。このマウスでは、高脂肪食投与後の脂肪組織のM1様マクロファージ(F4/80+, CD11c+)の浸潤と炎症性サイトカイン遺伝子発現が共に抑制された。単離した脂肪組織のM1様マクロファージでは、CCR2やCCR5など、細胞遊走に関わるケモカイン受容体の遺伝子発現が低下しており、それは高脂肪食投与以前から生じていた。また、このマウスやCD11c細胞特異的なコンディショナルノックアウトマウスでは、興味深いことに高脂肪食による体重増加が抑制されており、CD11c陽性細胞のp38alpha経路による肥満制御が明らかになった。これまでは主に通常の高脂肪食による、肥満と慢性炎症を同時に生じるモデルで脂肪組織の慢性炎症を中心に解析を進めてきた。今回新たに、肥満を生じない非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のマウスモデル(松本ら, Int J Exp Pathol. 2013)で肝における慢性炎症についても解析を開始した。肥満を生じないこのモデルでは、CD11c特異的なp38alphaコンディショナルノックアウトマウスと野生型マウスで体重差は認めなかった。しかし、脂肪肝や肝障害の指標には影響があることを見出しており、CD11c細胞のp38alpha経路が、脂肪組織以外の慢性炎症にも関連することが示唆された。今後このモデル系での解析も進める。
2: おおむね順調に進展している
これまでTie2-Creトランスジェニックマウスをp38alpha floxマウスと交配して作成した、血球系特異的なp38alphaコンディショナルノックアウトマウスで解析を進めてきた。その結果、このp38alphaコンディショナルノックアウトマウスでは、高脂肪食投与で脂肪組織に浸潤するM1様マクロファージ(F4/80+, CD11c+)の割合と、炎症性サイトカイン遺伝子の発現レベルがともに減少すること、脂肪組織から単離したM1様マクロファージの細胞当たりの炎症性サイトカイン遺伝子発現レベルには大差がないものの、ケモカイン受容体遺伝子の発現レベルが低下していること、ケモカイン受容体遺伝子発現レベルの低下は、肥満誘導以前から既に生じていること、を明らかにできた。一方、体重増加に関わる血球系細胞については、CD11c特異的なp38alphaコンディショナルノックアウトマウスでも体重増加とインスリン抵抗性が共に低下することから、CD11c細胞のp38alpha経路がインスリン抵抗性と肥満の両方に関わることを示すことができた。これまでは主に高脂肪食による脂肪組織の慢性炎症を中心に解析してきたが、今回新たに、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のマウスモデル(松本ら, Int J Exp Pathol. 2013)で肝における慢性炎症についても解析を開始した。このモデルでは、CD11c特異的なp38alphaコンディショナルノックアウトマウスで体重差はないが、脂肪肝や肝障害の指標に影響があることを見出しており、CD11c細胞のp38alpha経路が脂肪組織以外の慢性炎症にも関連することが示唆された。今後このモデル系での解析も行う。
これまで主に高脂肪食を投与した際の、肥満と慢性炎症を同時に生じるマウスモデルについて解析してきた。また、CD11陽性細胞の役割については、CD11c特異的p38alphaコンディショナルノックアウトマウスも導入し、より細胞種を絞り込んだ解析も進めた。その結果、CD11陽性細胞のp38alpha経路が高脂肪食投与時の脂肪組織の慢性炎症に影響を及ぼすことについてはある程度明らかにできたと考える。一方で、この高脂肪食モデルでは、p38alphaコンディショナルノックアウトマウスで肥満も軽減される。従って、p38alphaが脂肪組織における慢性炎症に影響する原因が、CD11c陽性細胞の炎症惹起作用に直接影響するためなのか、あるいは、肥満抑制による間接的な影響であるのかを区別するのは容易では無い。もし肥満を生じない慢性炎症モデルでp38alphaコンディショナルノックアウトマウスの解析を行えば、CD11c陽性細胞の肥満とは関係ない慢性炎症惹起作用を検討可能になる。最近、松本らによって非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のマウスモデルが報告された。このモデルでは、コリン欠乏、Lアミノ酸欠乏、高脂肪食(CDAHFD)の投与で脂肪肝と肝炎が誘導されるが、肥満は生じない。このマウスモデルでも解析を開始しており、今後も検討を進める予定である。これによって、血球細胞のp38alpha経路が高脂肪食による脂肪組織以外の慢性炎症にも関わるか、また、肥満を介する間接的影響がない場合も、直接的に慢性炎症にも関わるか、を検討可能になる。
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Bioscience, biotechnology, and biochemistry
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Zebrafish
巻: 12 ページ: 432-439
10.1080/09168451.2016.1141039