研究課題/領域番号 |
26460574
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
熱海 徹 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 特任助教 (80360478)
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研究分担者 |
上村 大輔 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 講師 (20391922)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 炎症 / エピジェネティクス / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
本研究はRNA結合タンパクであるRBM10の非免疫細胞におけるNFkBシグナルとSTAT3シグナルの同時活性化による炎症性サイトカイン、ケモカインの産生増強機構「炎症回路」における役割を明らかにするものである。shRNAによるRBM10欠損細胞株では炎症アンプの活性化による炎症性サイトカイン、ケモカインの産生、転写が強く抑制されていた。RBM10欠損細胞ではp65のプロモーターDNAへの会合が顕著に抑制され、ヒストンH3K27のアセチル化、H3K4のトリメチル化も同様に抑制されていた。またDNAのメチル化については、Cxcl1 遺伝子のp65結合配列近傍のシトシンがRBM10欠損細胞株で顕著にメチル化されていることを発見したことからRBM10はエピジェネティックな機構により炎症回路を制御していることが示唆された。De novo DNAメチル酵素であるDnmt3bは体細胞においては選択性スプライシングによって4種類のmRNAが転写されるが、RBM10欠損細胞株ではDNAメチル化活性を持つ全長型のアイソフォームであるDnmt3b2の比率が増加していた。またレポーターアッセイにより、Dnmt3b2はIL-6の転写抑制能を持つが、他のアイソフォームでは持たないことが示唆された。さらに無刺激時にp65結合配列へのDnmt3bのリクルートがRBM10欠損細胞で増加すること、さらにメチル化DNA結合タンパクであるMBD2のリクルートも同様に亢進していたことから、RBM10欠損細胞においては無刺激の状態の時点でp65結合配列はヘテロクロマチン様の構造を形成しており、転写をサイレンングしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究でRBM10が炎症回路に関与すること、RBMノックダウン細胞における転写の減少はプロモーター領域のp65の会合の減弱に起因すること、その原因がDNAメチル化の亢進によることを明らかにできた。その制御機構としてRBM10がDnmt3bの選択的スプライシングを制御し、Dnmt3bのメチル化活性を介してクロマチンの状態変化を誘導している可能性を示すことができた。現在ヘテロクロマチンのマーカーであるH3K9me3,H3K27me3のプロモーター領域のp65結合配列におけるリクルートメントを検討中である。現状ではDnmt3bによるDNAメチル化がp65のプロモーター部位で特異的に亢進するメカニズムが未解決であるが、Dnmt3bとp65との会合を示唆する結果が得られており、p65がDnmt3bをp65結合配列に引き寄せている可能性がある。現在レトロウイルスを用いDnmt3bの各アイソフォームを選択的に過剰発現する細胞株を作成し、Dnmt3bとp65との会合を検討することにより、p65結合配列にリクルートされるDnmt3bについてアイソフォーム特異性の有無を検討している。今年度でRBM10の欠損における転写の抑制機構がDnmt3bを介した無刺激時のクロマチンの状態変化によるものであることが強く示唆できたが、p65結合配列特異的にサイレンシングが生じる機構がまだ解決できていない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でRBM10によるスプライシング制御に関連するDnmt3bの活性の変化がp65のプロモーター部位のメチル化に関与する可能性が示唆されたが、現時点では生物学的な証明ができていない。そこでDnmt3bの各アイソフォームの発現ベクターを作成し、CRISPR/Cas9システムで内在性Dnmt3bを欠失させた細胞に遺伝子導入することによって、Dnmt3bアイソフォーム特異的なノックイン細胞を作成する。この細胞により、IL-6、ケモカインの産生、p65のプロモーターへの会合、DNAメチル化、細胞内メチル化活性を比較することにより、炎症アンプにおけるDnmt3bアイソフォームとIL-6、ケモカインの転写との関係を明らかにする。またDnmt3bによるDNAメチル化がp65のプロモーター部位で特異的に亢進する分子機構を明らかにする。現在Dnmt3bとp65が複合体を形成していることを示唆する結果が得られているので前述のノックイン細胞を用いてp65結合配列にリクルートされるDnmt3bのアイソフォーム特異性を検討する。仮に特定のアイソフォームが選択的に結合しているのであれば、選択的スプライシングによるDnmt3bの量的な変化に加えて質的な変化の存在が考えられる。またMeDIP-sequence の結果を利用してRBM10により制御される遺伝子と、Nfkb標的遺伝子との相関性を統計学的に検討する。我々は炎症回路の動物モデルとして関節炎以外にも、乾癬、ベーチェット病、多発性硬化症、ぶどう膜炎モデルが利用できる。これらの動物モデルを用いてRBM10shRNAウイルスの投与、もしくはRBM10ノックアウトマウスを利用して実際の炎症性疾患におけるRBM10の役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
生化学実験で使用する予定の抗体等を注文したが、納期が今年度中に間に合わなかったため、次年度使用額が生じることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
既に注文済なので納入次第、当該する実験を行う。
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