獲得免疫系は抗原特異的な免疫応答を引き起すことで、生体防御に不可欠な役割を果たす。その主役であるT細胞が非自己抗原に対して特異的に反応する能力は胸腺での分化過程で形成され、胸腺では、抗原提示細胞上の自己ペプチドに対して低い親和性をもった幼若T細胞のみが選択的に分化誘導される(正の選択)。正の選択は生体にとって有用な抗原特異性レパトアの形成に重要な機構として知られているが、正の選択の過程で惹起される微弱なTCRシグナルが成熟T細胞の抗原応答性に影響を与えることが、我々を含むいくつかのグループから最近相次いで報告され、正の選択の新たな役割として注目されている。一方、胸腺プロテアソームをはじめとする胸腺固有のタンパク質分解機構が、正の選択を誘導する自己ペプチドの産生を担うことが近年明らかとなってきた。本研究では、正の選択が分化段階で個々の細胞の抗原応答性を規定するという前年度までの知見に基づき、平成28年度は、正の選択を介したT細胞の機能的教育の意義を個体レベルで検討した。放射線照射した胸腺プロテアソーム欠損マウスにOT-I TCRトランスジェニックマウスから得られた骨髄を移入することで、胸腺プロテアソーム非依存的に正の選択を受けたOT-I T細胞を作成した。このナイーブOT-I T細胞をレシピエントマウスに移入し、卵白アルブミン由来ペプチドでパスルした樹状細胞とCpGアジュバントを用いて、生体内で活性化させた。ドナーOT-I T細胞の数と表現系を経時的に観察したところ、記憶形成期において短命エフェクター細胞の分化亢進が見られた。また、in vivoでの二次刺激に対する記憶OT-I T細胞の増殖応答に顕著な障害が認められた。このことから、正の選択はT細胞の記憶形成能に影響することが推察され、さらなる詳細な検討を進めている。
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