研究課題/領域番号 |
26460577
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
森本 純子 徳島大学, 疾患酵素学研究センター, 助教 (20451396)
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研究分担者 |
松本 満 徳島大学, 疾患酵素学研究センター, 教授 (60221595)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中枢性寛容 / 自己免疫疾患 / 胸腺髄質上皮細胞 / Aire |
研究実績の概要 |
胸腺髄質上皮細胞(medullary thymic epithelial cell; mTEC)は自己反応性T細胞のセレクションに関与する細胞群である。特にmTECに特異的に発現する転写因子Aireは、遺伝性自己免疫疾患の原因遺伝子であることが知られており、mTECにおけるAireの機能解明は自己寛容の成立機構のみならず、自己免疫疾患病態形成のメカニズムについての理解が進展すると期待される。これまでは、Aireは転写因子としてmTECからの様々な組織特異的自己抗原(TSA)の転写を直接的に制御することで負の選択に寄与すると考えられてきたが、我々はAireがmTECの成熟過程そのものを制御することで、自己寛容の成立に寄与しているのではないかと提唱してきた(成熟化モデル)。平成26年度はtemporal lineage-tracingシステムを用いてAire発現細胞のfatemappingを行うことで、1)mTECにおけるAireの発現誘導はmTECに細胞死を誘導しないこと、2) AireはmTECのfull-maturationに必須であり、Aire欠損状態で誘導されたpost-Aire mTECは、Aire存在状態で誘導されたpost-Aire mTECと比較して細胞表面マーカーの発現に異常が認められること、3)mTECのfull-maturationにはthymocyteとの相互作用が重要であることをつきとめ、報告した(Nishikawa, Y. et.al. Journal of Immunology, 2014)。 さらにhuman CD2遺伝子を内在性AireとIRESをはさみAire遺伝視座に挿入したAireレポーターマウス(Aire/hCD2マウス)を用いて生細胞としてAire発現細胞の分離を試みた。Aire発現細胞におけるTSAの発現パターンをsingle-cellレベルで解析することで、Aireの転写とTSAの転写との関連性を明らかにした。さらにはAire発現mTECおよびAire非発現mTECにおけるマイクロRNA発現についても本レポーターマウスを用いて解析を行うことで、Aireの発現有無によりマイクロRNAの発現パターンが異なることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画として、1) temporal lineage-tracingシステムを用いてAire発現細胞のfatemappingを行う事で、mTECの分化プロセスにおけるAireの必要性の解析を行う。2)Aire発現mTECを生細胞として分離、解析することが可能なAire/hCD2レポーターマウスを用いて、Aire発現細胞におけるマイクロRNAの発現解析を行う。3)ジフテリア毒素レセプター(DTR)をAire遺伝子座に挿入したAire/DTRノックインマウスを用いた時期特異的自己免疫病態発症機構の解析、を掲げた。 現在までに1)に関してはすでに論文に投稿し、掲載されている(Nishikawa, Y. et.al. Journal of Immunology, 2014)。2)に関してはAire/hCD2レポーターマウスを用いてhCD2陽性(Aire陽性)mTECおよびhCD2陰性(Aire陰性mTEC)を回収し、マイクロRNAの発現解析を行った。さらに本レポーターマウスを用いてAire発現細胞をsingle cellレベルで回収し、組織特異的自己抗原の発現をsingle cellレベルで解析し、Aire発現と自己抗原発現との関連性の解析を行った。3)に関しては現在糖尿病を自然発症するNODマウスへの戻し交配を行い、NODタイプのAire/DTRノックインマウスを作製している段階である。NODマウスへの戻し交配が終了した時点で、Aire発現細胞をジフテリア毒素を投与することで時期特異的にAire発現細胞を消去し、自己免疫疾患発症機構の解析に進む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、Aireがどのようなメカニズムで中枢性寛容の成立に寄与しているのかを、AireがmTECの成熟化に関与する分子であるという観点よりアプローチし、難治性炎症性疾患である自己免疫疾患の原因解明の基盤となる研究を行う。平成27年度、平成28年度は自己免疫疾患の病態解析を中心に研究を進めていく。 特にNOD化を行ったAire/DTRノックインマウスを用いて、Aire発現細胞の時期特異的除去がNODマウス特有の自己免疫疾患発症にどのような影響をあたえるのかを解析することで、AireおよびAire発現細胞の機能解明を行う。さらにはインスリンプロモーター制御下で卵白アルブミン(OVA)が発現するTgマウス(胸腺および膵臓においてOVAの発現を認める)と、OVAを特異的に認識するT細胞受容体を発現するTgマウスを交配したdouble Tgマウスに、Aire/DTRノックインマウスをかけあわせたマウスを作製する。このマウスにおいてAire発現mTECを除去することでT細胞セレクションにどのような影響がもたらされるか、さらには膵臓の組織障害がどのように変化するかを解析することで、T細胞セレクションの異常と組織障害との関連性について理解する。 さらに、Aire発現mTECをアポトーシス非感受性にした時に、自己寛容の成立機構がどのように変化するのかを、アポトーシスに拮抗するウイルス由来蛋白質p35をAire発現mTECに発現させたノックインマウスの解析を行うことで明らかにしたいと考えている。 Aire機能の異常は、人において自己免疫性多腺性内分泌不全症1型(APECED)を引き起こすことが知られている。本研究でAireおよびAire発現細胞の機能を明らかにすることで、自己免疫疾患の原因についての理解を深め、しいては新たな自己免疫疾患治療につなげたいと考えている。
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