胸腺髄質上皮細胞(medullary thymic epithelial cell; mTEC)は様々な組織特異的自己抗原を発現することで、T細胞のセレクションに関与している。胸腺内でのこのT細胞セレクションの異常は、自己反応性T細胞の末梢への流出を誘導し、結果として自己免疫疾患の発症に繋がる。mTECに特異的に発現する転写因子Aireは組織特異的自己抗原の産生を制御することで自己寛容の成立に重要な役割を果たしていることが知られている。mTECはその分化段階によりいくつかのサブセットに分けられるが、これまではCD80やMHC class2、Aireの発現の有無により分類されてきた。我々は今回、血球細胞が発現するLy6g/Ly6cを発現するmTECが存在することを見出した(Gr-1陽性mTEC)。このGr-1陽性mTECは髄質と皮質の境界領域に局在し、RNAseqの解析より非常に分化した段階にあるmTECであることが分かった。さらにこのGr-1陽性mTECはGr-1陰性mTECと比較して、一部の自己抗原やケモカインを高発現していることが示された。またGr-1陽性mTECの部分的な除去は、末梢組織へのT細胞浸潤を引き起こした。mTEC上に発現するLy6c分子の機能を解明するために、我々は新たにCRISPR/Cas9システムを用いてLy6C欠損マウスを作製した。Ly6C欠損マウスにおけるmTECおよびT細胞の分化は正常であり、自己免疫疾患の発症も認めなかった。よってmTEC上に発現するLy6C分子は機能分子ではなく現在のところマーカとして捉えるべきであると考えている。我々の一連の研究により自己寛容成立に関与する新たなmTECサブセットが見出された。このmTECのさらなる解析は、自己寛容の破綻から生じる自己免疫疾患の発症メカニズムの解明ひいては治療への糸口となることが期待される。
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