研究課題
慢性型感染症では、持続的な抗原刺激により誘導されるT細胞の疲弊が、病原体を排除する上で大きな問題となっている。しかしながら、どのようなメカニズムでT細胞の疲弊が誘導されるか、その分子機能については理解が進んでいない。本研究の目的は、T細胞疲弊メカニズムを感染マウスモデルを用いて解明し、疲弊に基づくT細胞機能不全を抑制、あるいは解除する手法の開発を目指すものである。今年度は、本研究のT細胞疲弊モデルである腫瘍抑制因子Menin欠損マウスを用いて詳細な解析を行った。リステリア感染後、Menin欠損CD8陽性T細胞において、抑制性受容体PD-1の高発現や細胞死の誘導など、慢性型感染症で見られる特徴的な疲弊現象が早期に誘導され、同時に、T細胞分化マーカーであるKLRG1の高発現とCD27の低発現が観察されたことから、effectorへの分化促進と疲弊との関連を示唆する結果を得た。また、Meninとの相互作用が疑われる細胞内エネルギー代謝に関与する蛋白FoxO1やFoxO3aの発現をCD8陽性T細胞で比較したところ、両蛋白の発現量が野生型と比べ、Menin欠損T細胞で低下することが明らかとなった。さらに、メタボローム解析から、Menin欠損T細胞において、グルタミン代謝経路の亢進が見られ、エネルギー代謝異常を示唆する結果を得た。これらの結果から、Menin欠損CD8陽性T細胞に見られる疲弊が、T細胞における分化促進、およびエネルギー代謝異常によって引き起こされる可能性が示唆され、今後のT細胞疲弊抑制・解除する研究にとって重要な成果が得られたと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、Menin欠損CD8陽性T細胞におけるT細胞分化と疲弊の解析を行い、腫瘍抑制因子Meninが、effectorへの分化制御とT細胞疲弊の抑制に働いていることを示唆する結果を得た。Meninと相互作用をする蛋白として見出したFoxO1やFoxO3aに関する解析を行い、両蛋白の発現維持にMeninが重要な働きを示す結果を得た。さらに、当初予定がなかったメタボローム解析から、Menin欠損T細胞のグルタミン代謝経路が野生型よりも活性化しており、細胞内エネルギー代謝異常が、疲弊を誘導する可能性を示す結果を得た。現在は、Meninが感染過程のどの時期に重要かについて明らかにするため、薬剤依存的Menin欠損マウス(Meninfl/fl Rosa-CreER)を作製し、予定通り、感染後のMeninの役割について解析を行っている。
平成26年度の成果を念頭に置き、Menin欠損マウスを用いてエネルギー代謝異常に焦点を絞り、疲弊を解除する手法を開発するため、次年度以降に以下の研究計画を立てた。1)FoxO1およびFoxO3aの発現が、Meninにより制御されるメカニズムを分子レベルで解明し、FoxO1およびFoxO3aの発現と、Menin欠損T細胞におけるエネルギー代謝異常との関連について検討する。2)作製した薬剤依存的Menin欠損マウスを用いてMeninが感染過程のどの時期に、T細胞分化の制御および疲弊の抑制に働くかについて明らかにする。3)グルタミン代謝経路の阻害剤を用いて、Menin欠損CD8陽性T細胞の疲弊を抑制、あるいは解除できるかについて検討する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Nature Communications
巻: 5 ページ: 3555
10.1038/ncomms4555