本研究は、先端幹細胞技術の中で人の生と死に関与する生殖細胞および神経細胞を創出する技術を中心に、これらを用いる研究や医療の進展を予想し、現在の医療規制を踏まえつつ、倫理的課題を明確化した上で社会への影響を多角的に考察し、議論活性化への貢献を目指した。 生殖細胞を創出する幹細胞技術に関しては、医療応用の目的と社会への正と負の影響の可能性について分析を進め、目下、正当性があると考えられる目的としてがん治療生存者の妊孕性確保のための利用を見出し、成果を学会や論文にて発表した。一方、この幹細胞技術の基礎研究は、科学的な目的であっても「試験管内でのヒト卵子、精子、胚の無節操な生産と破壊」などの懸念がある。この科学的な研究は生殖医療の治療成績の改善につながる有益な知見を提供する見込みもあるため、一般の人々の理解と、適切な規制の下、節度ある研究の実施を問いかける論文を発表した。神経細胞創出技術は、現状、倫理的課題があるとは判断されなかったが、試験管内でヒトiPS細胞から皮質や血管を有するオルガノイドを形成する技術は急速に進展しており、時期を改めて検討しなおす予定である。 本研究の実施の中で、幹細胞技術に統合しつつある新しい遺伝子工学、ゲノム編集について緊急性のある課題と認識し、生殖細胞系列の遺伝的改変の臨床応用に際する倫理的、法的、社会的課題の分析を進め、論文発表した。また、日本学術会議 医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方検討会に参画し、提言とりまとめに貢献した。
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