我々は、福島県立医科大学医学部5年次臨床実習において、外科系3診療科と連携した高機能腹腔鏡下手術シミュレータによるシミュレーション実習を行い、医学生のPsychomotor skill(精神運動領域の能力)を観察し続けてきた。対象学生535名に上る観察研究において、同じ基礎・臨床教育を受けてきた医学生同士でも、医学部臨床実習の段階では客観的なシミュレータ操作能力に差異を認め、全体的には男子学生は女子学生より外科系のpsychomotor skillに優れていることを見出した。これらの個人差が、卒業後の専門診療科選択にどのように影響しているかを明らかにすることを目的として、医学生の器用さと卒後の進路の関連性について検討を行った。 2012~13年度に福島県立医科大学を卒業し後期研修医となった167名については、在学時に外科系を志望した者は20%、非外科系志望者は32%で、半数は未定であった。卒前の臨床実習での腹腔鏡下手術シミュレーション実習において、外科系志望者は、非外科系志望者よりも、自分自身を器用と評価していたが、客観的なシミュレータ操作能力に差異はなかった。卒業後の専門診療科を特定できたのは138名で、外科系選択者46%、非外科系選択者54%であった。両者間で、在学時のシミュレータの操作能力、器用さの自己評価のいずれについても有意な差は認めなかった。 卒前のシミュレーション実習で観察された器用さは、卒後の専門診療科選択に影響をしていないと考えられた。さらに、外科系診療科の選択者と非外科系診療科の選択者との間で、器用さの客観的な指標と主観的な指標の両方で有意な差を認めなかった。卒後3年次の専門診療科選択には、器用さ以外の要因が関与している可能性が示唆された。
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