心臓聴診技法教育において、はじめから心雑音の全体を聴かせるのではなく、正常な心音に、異常な心音を徐々に音量を上げて追加していくことで、これに注意を向かせ、心周期の中で異常な心音や心雑音を把握する手法が有効ではないかと考えた。この手法は、これまでの心臓聴診教育の中ではみられなかった手法であり、どういう効果を有するか興味深い。そこで、医学部4年次の学生を対象として、III音、IV音、収縮期雑音、拡張期雑音のそれぞれについて、心音・心雑音を漸増(または漸減)した場合とそうでない場合とで所見のわかりやすさについて検討を行った。 検討は心音・心雑音が聴き取れましたか?という質問に対して、聴き取れた、少し聴きとれた、あまり聴き取れなかった、聴き取れなかった、の4点満点で回答してもらう方法をとった。心雑音漸増追加により、約半数が聴き取りやすさのポイントが上昇したが、約40%は聴き取りやすさのポイントが変わらず、残り約10%は逆に聴き取りやすさのポイントが低下した。III音とIV音、収縮期雑音と拡張期雑音とで差はみられなかった。 今回の結果から心雑音漸増追加漸減消失方式は、ある程度の効果はあるものの劇的な効果をもたらすほどではなかった。心雑音漸増追加漸減消失方式をより有効に活用するためには心雑音の聴取に集中させることが重要であり、音源の再生に際し出力の方法を聴診器、もしくはイヤホンを介して行えるようにすること、漸増のスピードをどの程度にするのが適当かについてより詳細に検討する必要があることが考察された。
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