研究実績の概要 |
TP53変異型癌細胞では,TP53遺伝子と高い相同性を有するTP73遺伝子がTP53と同様に転写調節因子として腫瘍細胞の増殖抑制効果を示すと言われている。本研究の目的は,TP53変異型消化器癌細胞株において,上記p73制御分子の発現抑制が抗腫瘍効果を有するか否かを明らかにすることである。当初,使用細胞株として,胃癌・肝癌・膵癌を計画していたが,siRNAの導入効率などを再検討し,大腸癌・膵癌及び胃癌細胞株を用いることとした。 平成26年度は,消化器癌細胞TP53変異株の中でも,大腸癌細胞TP53変異株(DLD-1)及び膵癌細胞TP53変異株(Panc-1, MIA Paca-2, BxPC-3)を用い,p73制御分子であるMDM2やΔNp73, iASPPの発現レベルについて,各々Western blot法にて解析した。その結果,何れの細胞においてもMDM2, ΔNp73, iASPPの発現レベルは高く,これらの発現抑制や機能抑制がp73機能の活性化をもたらす可能性が推測された。そこで,MDM2阻害薬nutlin-3のDLD-1及びPanc-1、MIA Paca-2, BxPC-3細胞株における抗腫瘍効果をin vitroにて検証した。nutlin-3の投与濃度を0~100μMまで段階的に設定し,WST-8 assayにて検証したが,何れの細胞でも増殖抑制効果は認められなかった。MDM2 siRNAを用いたMDM2の発現抑制も行ったところ,Panc-1細胞では著明な増殖抑制効果が認められ,殺細胞性抗がん薬gemcitabineとの併用で抗腫瘍効果の増強が認められた。その他の細胞株では増殖抑制効果は認められず,これらの効果の違いは現時点では明らかではない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TP53遺伝子変異を有するがん細胞株においてp73制御分子であるMDM2, ΔNp73, iASPPの高発現を確認した。予測通り、MDM2の小分子阻害薬によってp73活性化による細胞増殖抑制は認められなかったが、silencingではPanc-1細胞において著明な増殖抑制効果が認められ,殺細胞性抗がん薬gemcitabineとの併用においても,抗腫瘍効果の増強が認められた。このメカニズムの解明、ならびにΔNp73, iASPPの抑制実験を行う予定であり、概ね順調に研究は進めることができていると考えている。
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