研究課題/領域番号 |
26460628
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
荒木 博陽 愛媛大学, 医学部附属病院, 教授 (50294450)
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研究分担者 |
田中 亮裕 愛媛大学, 医学部附属病院, 准教授 (50527562)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 潰瘍性大腸炎 / ドラッグリプロファイリング / α7型ニコチン姓アセチルコリン受容体 / トロピセトロン / ニューロキニン1受容体 |
研究実績の概要 |
現在の潰瘍性大腸炎(UC)の治療目標は寛解期への導入であり、根治には至っていない。一方、ステロイド薬や免疫抑制剤など現在の治療薬には様々な副作用があり、このことが患者のQOLを低下させる原因の1つとなっている。さらに、その副作用の治療のために多くの医療費が必要であることも問題である。従って、今までとは違ったメカニズムを持つ副作用の少ない新規UC治療薬の開発が望まれている。これまでに我々は、5-HT3受容体阻害薬であるトロピセトロンが、α7型ニコチン姓アセチルコリン受容体(α7nAChR)刺激作用を介して腸炎のスコア、好中球の浸潤、組織像といった様々な指標においてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)腸炎を抑制することを明らかにした。また、選択的α7nAChR刺激薬を投与することにより腸組織内のIL-6およびIFN-γを抑制すること、さらに免疫染色法を用いることにより大腸組織内においてもDSS腸炎の形成に伴って浸潤したマクロファージにα7nAChRが存在していることを見出した。これらのことから、α7nAChR刺激薬は有効なUC治療薬となりうることが示唆された。そこで、平成26年度の本助成でトロピセトロンによるDSS腸炎抑制効果のより詳細なメカニズムについて検討を行った結果、トロピセトロンの腸炎抑制作用はTNF-αに依存しない可能性が示唆され、α7nAChRを刺激することにより大腸組織へのマクロファージの浸潤が抑制されることを見出した。以上の結果から、トロピセトロンがDSS腸炎を抑制するメカニズムとして、1. 大腸においてマクロファージに存在するα7 nAChRsの刺激を介して,2. マクロファージからのIL-6産生抑制によりT細胞の活性化を阻害し,3. 大腸においてT細胞からのIFN-γの産生が抑制され,4. さらなるマクロファージの活性化を抑制する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、α7nAChRやニューロキニン1受容体(NK1R)など複数の薬理学的メカニズムに着目し、その腸炎抑制効果について検討を行っている。これまでに我々は、トロピセトロンがα7nAChR刺激作用を持つことに着目し、その腸炎抑制効果について検討を行ってきた。そこで、平成26年度の本助成ではこれまでの知見を元に検討を行い、トロピセトロンの詳細な腸炎抑制効果のメカニズムを明らかにし、トロピセトロンの安全な新規潰瘍性大腸炎治療薬としての可能性が示唆された(Tasaka Y et al, Journal of Pharmacological Sciences, 2015, 127(3), 275-283)。また、過去の文献等を参考に慢性腸炎モデルについて検討を行い、5%DSSと3.5%DSSの投与を組み合わせることにより、慢性DSS腸炎モデルの確立を行った。慢性DSS腸炎モデルはこれまでの急性DSS腸炎モデルと比べて、よりヒトの病態に近いモデルであり、今後様々な候補薬剤の腸炎抑制効果を検討する上で有用であると考えられる。このように我々は、本助成により1つの候補薬剤(トロピセトロン)についての腸炎抑制メカニズムを明らかにし、今後さらなる検討を行う準備を整えることができた。従って、本研究は概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在のUC治療薬だけでは根治には至っていないこと、様々な副作用が患者のQOLを低下させ、副作用に対する多くの医療費が必要であることが問題となっている。従って、安全な新規メカニズムをもつUC治療薬の開発は急務である。我々はDSS腸炎モデルを用いて他の疾患の治療薬として用いている既存薬や健康食品などの中で腸炎抑制作用を持つ可能性のある薬剤の探索を行い、その腸炎抑制効果について検討を行っている。これはドラッグリプロファイリングと呼ばれる手法であり、安全な治療薬を短期間で開発するために有効な手段である。平成26年度はこの手法によりトロピセトロンの腸炎抑制メカニズムを明らかにし、UC治療薬としての可能性を見出した。そこで今後はまず、我々が注目している新たな腸炎抑制メカニズムであるサブスタンスP-NK1Rの経路に着目し、検討を行っていく予定である。これまでに我々は日本学術振興会の奨励研究でNK1R阻害薬であるアプレピタントが腸炎抑制効果を示すことを明らかにし、そのメカニズムに好酸球が関与している可能性を示唆している。そこで、今後はより詳細なメカニズムについて検討を行うことで、新たなUC治療薬の候補薬剤についての提案を行うことが可能であると考えている。具体的にはまず、急性DSS腸炎モデルを用いてDSSの投与がサブスタンスPやNK1Rの発現に与える影響およびその局在について検討を行う。次に、アプレピタントが炎症性サイトカインなどに与える影響について検討を行う。また、慢性DSS腸炎モデルを用いて検討することにより、急性モデルでは明らかにすることができない長期的な検討が可能である。さらに、引き続きα7nAChRにも着目し、他の候補薬剤が見つかれば適宜検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の想定よりも少ない検討で目的が達成できたため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き本研究を進め、発生した次年度使用額は消耗品、試薬、旅費等に使用する予定である。
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