研究課題/領域番号 |
26460636
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
安井 裕之 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (20278443)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 糖尿病治療薬 / 膵β細胞保護薬 / 糖尿病予防 / 亜鉛錯体 / インスリン様作用 / Aktリン酸化作用 |
研究実績の概要 |
以前より亜鉛化合物は、抗糖尿病作用を示すことが報告されている。しかし、亜鉛の標的分子は未だに不明であり、亜鉛製剤による糖尿病の治療薬開発において詳細な作用機構の解明が求められている。本研究では、これまで私達が開発してきた亜鉛錯体による抗糖尿病作用の機構解明を目的とし、インスリンシグナル経路への影響を検討した。 成熟脂肪細胞へと分化した3T3-L1脂肪細胞を用いた。04型配位形式の亜鉛錯体について細胞内への取り込み量を検討したところ、亜鉛ヒノキチオール錯体([Zn(hkt)2])が著しい上昇を示した。そこで、インスリンシグナル経路での各タンパク質への影響を検討したところ、Akt、GSK3βのリン酸化が促進され、細胞内へのグルコース取り込みは促進した。次に、PI3K阻害剤のWortmaninもしくは膜透過性Zn2+キレート剤であるTPENを前処理したところ、それぞれの処置により[Zn(hkt)2]刺激によるAktリン酸化は抑制された。[Zn(hkt)2]が示すインスリン様活性の作用点は、PI3Kより上流部分である可能性が示されたため、シグナル経路の上流部分について検討したところ、インスリンを同時に作用させると[Zn(hkt)2]刺激時にIRβのリン酸化活性は上昇した。 一方、インスリンと[Zn(hkt)2]を同時に作用させるとAktのリン酸化レベルは相加的に上昇した。すなわち、[Zn(hkt)2]はインスリンとは独立したシグナル経路で作用していることも示唆された。 以上の得られたデータより、[Zn(hkt)2]は錯体の状態で、配位子の脂溶性に起因した受動輸送により細胞内へ取り込まれたのち、インスリンシグナル経路に対してインスリンとは異なる標的分子であるPTP1B、PI3K、ならびに未同定の分子に作用し、インスリン様活性を示していると考えられた。シグナル経路上流部分における別の重要因子であるPI3Kの制御分子であるPTENに対する影響、およびインスリンと独立したシグナル経路を現在検討しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、インビトロ実験系における成果としては、亜鉛錯体の作用機序に関する主たるターゲット分子がほぼ同定できたことである。細胞内インスリンシグナル伝達系におけるキー分子であるAktのリン酸化を促進させることが、亜鉛錯体のインスリン様作用を特徴づける要因として、これまで我々が明らかにしてきた。今回、亜鉛錯体によるAktのリン酸化促進にかかわる因子をAktの上流に位置する(シグナル伝達系として)分子から探索したところ、PI3Kの抑制因子であるPTENであることを見出した。すなわち、受動拡散により細胞内へ取り込まれた亜鉛錯体は、その構造を維持したまま、あるいは亜鉛イオンを放出してPTENを強く阻害することを明らかにした。 さらに、インスリンとは独立したAktリン酸化機構を亜鉛錯体が有することが分かったため、これに関する網羅的な解析を現在行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
そこで、今年度は、昨年度に十分実施出来なかったPTENに対するbinding assayとしてBiacoreX100(大学の共同利用機器)を用いた亜鉛錯体のスクリーニング実験を実施し、詳細な結合解析を行い、PTENに強固に結合する亜鉛錯体の候補を絞り込む。続いて、PTENに対するfunctional assayとして市販の精製酵素(recombinant protein)を用いた亜鉛錯体の酵素阻害実験を実施し、binding assayの結果と対応させる。Chemical Biologyのコンセプトに基づいた以上の実験系により絞り込まれた亜鉛錯体に関して、インスリン作用を有する新規インスリン活性剤の候補物質となりうるかどうかを、3T3-Ll培養細胞を用いた細胞assay系で評価し、候補物質を絞り込みたいと考えている。 上記とは別に、インスリンとは独立したシグナル伝達経路の解析、特に細胞膜タンパク質であるGPR39(亜鉛イオンが内因性リガンドと報告されている)への作用解析を中心にした機構解明の実験を計画している。 最後に、インビボ実験系として2型糖尿病モデルマウスであるKKA-yマウス、およびob/obマウスに経口投与して、血糖降下作用や膵臓β細胞の保護効果を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本科研費補助金による研究成果を纏めた学術論文の英文校正と投稿料に使用する予定であったが、作業の完了が予定通りに進まなかったため、年度内に使用できなかったから。
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次年度使用額の使用計画 |
上記成果の学術論文を2016年度には複数投稿する予定になっており、そのための英文校正代金と、場合によっては投稿料として充填する予定である。
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