平成28年度は、ストレスホルモンACTHの幼若期反復投与処置による「幼若期薬理学的ストレス負荷ラット」を作製し、幼若期に受けたストレスが成長後の行動学的および内分泌学的応答性、また情動機能/ストレスと密接な関連がある縫線核からの投射部位におけるセロトニントランスポーター(SERT)発現細胞群に及ぼす影響を検討した。 離乳した幼若期(3週齢)のWistar系雄性ラットに、ACTHの活性アナログである酢酸テトラコサクチド(100ug/rat)を5日間反復皮下投与した(ACTH群)。対照群として生理食塩水を同様に投与した。 本年度はACTH群の成長後の行動学的特性解析として、抑うつ様行動(スプラッシュ試験:無快感症状)、自閉症様行動(常同行動[毛繕い行動]の観察:固執・反復行動)および統合失調症様行動(聴性プレパルス抑制[PPI]試験)を評価した。その結果、スプラッシュ試験においてACTH群では、背部へのスクロース噴霧によって誘発される毛繕い行動の発現回数および発現時間が有意に低下した。また、ACTH群は自発的な毛繕い行動が対照群と比較して持続的に長時間観察された。聴性PPI試験において、ACTH群のPPI反応およびモノパルス単独刺激による驚愕反応は対照群と差がなかった。抑うつ様行動の神経内分泌学的応答性の検討にデキサメタゾン抑制試験、自閉症様行動の検討に超音波啼鳴試験の基礎的実験を実施した。さらに縫線核からの投射部位におけるSERTの発現変化を免疫組織化学的に検討したところ、投射先と考えられる海馬や前頭前野などの測定した脳部位に変化は認められなかった。 これらのことからACTH群の成熟期では、抑うつ様行動および自閉症様行動の一部が発現し、その背景として縫線核の投射先における変化では無く、縫線核に存在するGABA含有細胞群の機能低下(昨年度の研究成果)との関連性が示唆された。
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