研究課題/領域番号 |
26460642
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
戸塚 実 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 教授 (60431954)
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研究分担者 |
大川 龍之介 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 助教 (50420203)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | High-density lipoprotein / N-ホモシステイン化 / myeloperoxidase / Chymase / apoE含有HDL / SAA |
研究実績の概要 |
1.N-ホモシステイン化apoA-I;脂質(DMPC)との親和性に変化は見られなかったが,結合能は上昇した.apoA-Iの抗酸化能はN-ホモシステイン化によって減衰したが,泡沫細胞からのコレステロール引き抜き能には影響を及ぼさなかった.また,リポポリサッカライド(LPS)による刺激後の内皮細胞培養液による単球の遊走試験において,apoA-IのLPS中和作用はN-ホモシステイン化によって減弱することが確認された. 2.Myeloperoxidase酸化HDL;抗酸化能およびコレステロール引き抜き能はHDLのmyeloperoxidaseによる酸化の影響を受けなかった.しかし,HDLのLPS中和作用はmyeloperoxidaseの酸化によって減弱することが確認された.また,myeloperoxidaseによるHDLの酸化はchymaseに対する感受性を高めることが示され,これがHDLの主要構成蛋白であるapoA-Iの酸化に起因することが確認された. 3.ApoE含有HDL; apoE含有HDLの過酸化脂質濃度はapoE非含有HDLに比べて極端に高いことが確認された.しかし,硫酸銅による酸化後の過酸化脂質濃度はapoE含有HDLのほうが低く,量的な抗酸化能は低いと考えられた. 4.SAA-HDL;健常者と急性炎症患者より得られたHDLの比較により,炎症時に増加するSAA-HDLの抗酸化能は通常のHDLよりも高い可能性が示唆された.しかし,血中HDL濃度を加味した,各個人における全体としての抗酸化能が亢進しているとは限らないことが示唆された. これらの結果から,apoA-IおよびHDLの修飾が,必ずしも抗動脈硬化作用を抑制するとは限らないことが示唆された.また,HDLの微少分画と主要分画は機能の面で大きく異なることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は修飾HDLおよびapoA-IあるいはapoE含有HDLのようなHDLの微少分画の基本的性質を明らかにするとともに,機能的に動脈硬化抑制あるいは促進のいずれに働くかを明らかにし,冠動脈疾患発症の予防に向けたバイオマーカーとしての可能性を探索することである.ターゲットとして考えていたN-ホモシステイン化apoA-I,myeloperoxidase酸化HDL,apoE含有HDL,SAA-HDLについて,血液中の存在を確認するとともに,HDLの粒子サイズや荷電等の基本的性質を明らかにすることができた.また,それらの抗動脈硬化的機能である,抗酸化機能,抗炎症機能,コレステロールefflux能についても,概ね解析法が確立され,機能試験を実施することができた.しかし,より優れた機能試験法確立の上で以下の2点において要確認事項が生じ,現在それを解決するために実験を実施している. 1)コレステロールefflux能:THP-1細胞の継代数,マクロファージ化および泡沫化の日数等により機能面で亢進・不変・抑制といった異なった結果が得られる場合があることが判明した.これは既報において矛盾した結果が報告されている要因であると考えられるため,細胞表面マーカー解析,脂肪滴解析などの定量的手法を用いて,コレステロールefflux能を経時的に捕らえることを試みている. 2)抗炎症機能:現状ではリポポリサッカライド(LPS)の中和能として評価しているが,酸化LDLなどによる内皮細胞刺激で誘導される炎症反応を抑制するHDLの作用という観点からの実験系を構築している. 当初の目的である修飾HDL等の抗動脈硬化作用の解明という課題を,粥状動脈硬化の進展度という経時的な観点から詳細に検討するというあらたな必要性が示された.これらの分析法の確立によって,より詳細な機能解析が可能になると考える.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定であるN-ホモシステイン化apoA-I,myeloperoxidase酸化HDL,apoE含有HDL,SAA-HDLの抗動脈硬化機能を通常のapoA-IあるいはHDLと比較していく.しかし,研究過程において,病期(動脈硬化の進展度)によってそれぞれのHDLおよびapoA-Iが示す抗動脈硬化作用には多様性がある可能性が示唆された.したがって,すべての機能試験に病期を意識した経時的解析法を確立し,抗動脈硬化作用の変遷を詳細に捕らえていく.一方,これらの機能試験は一般的にHDLの蛋白濃度を一定にして解析しているが,それぞれのHDLは当然のことながら,その含有蛋白量,リン脂質量,あるいはコレステロール量が異なる.したがって,それぞれの構成成分を一定にした機能検査を実施し,機能の差異に起因する要因を明らかにする.これらの実験から得られる,抗動脈硬化作用の増強あるいは抑制結果から,抗動脈硬化作用を持つHDLあるいはapoAIの2面性の要因となる修飾等を明らかにする.しかし,それぞれのHDLあるいはapoA-Iが病期の違いでそれぞれ2面性を示す可能性も考えられるため,経時的解析法による機能の変化を解析する.最終的には,抗動脈硬化性因子,動脈硬化促進因子としての,さらにはこれらのいずれの機能も持ち合わせない因子としてのマーカーとなりえる修飾HDLおよびapoAI,微少HDL分画を明らかにする.
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