自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis: AIH)は他の自己免疫性疾患と同様、女性に好発し、妊娠・出産や閉経など性ホルモンの大きな変化がその発症・病態の進展に影響すると言われている。初年度は、17β-estradiol投与によってエストロゲン受容体α鎖を介した肝樹状細胞のIL-10産生増強がAIHの発症抑制に関与する可能性を明らかにした。次年度はエストロゲン受容体を阻害した実験的低エストロゲンマウスへAIHを誘導したところ、肝障害が有意に増悪し、死亡個体も見られた(15例中3例)。特に肝臓内において正常状態では数少ないI-AlowCD11b+ の樹状細胞(dendritic cell; DC)およびmyeloid DCの絶対数が増加し、血中IL-12(p70)及びTNF-αの有意な増加を認めた。最終年度である今年度は卵巣摘出による実験的閉経モデルマウスを作成し、AIHを誘導し解析を行った。その結果、肝障害はエストロゲン受容体阻害マウスと同様に増悪したものの、死亡例は認めなかった。また、DCの動態についてもI-AlowCD11b+DCが増加した一方で、plasmacytoid DCの絶対数が減少したことが明らかとなった。 以上のことから、女性ホルモンの1つである17β-estradiolは肝樹状細胞のIL-10産生を介したAIHモデルマウスの肝障害を抑制する一方でエストロゲン受容体阻害およびエストロゲン枯渇状態は肝DCのサブセット変化を誘発し、AIH肝障害を増悪することが示唆された。このことは、女性ホルモンの増減が肝内樹状細胞の機能、あるいはサブセット変化を誘導し、自己免疫性肝炎の肝障害を調節している可能性を示唆するものである。
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