研究課題/領域番号 |
26460660
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
湊 宏 金沢医科大学, 医学部, 教授 (10293367)
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研究分担者 |
竹上 勉 金沢医科大学, 総合医学研究所, 教授 (10113490)
中田 聡子 金沢医科大学, 医学部, 助教 (30569091)
三浦 裕 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90285198)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 悪性中皮腫 / ATBF1 / 癌抑制遺伝子 / 培養細胞 / 細胞内局在 / 核細胞質移行 / リン酸化 / 脱リン酸化 |
研究実績の概要 |
ヒト悪性中皮腫細胞株3種(NCI-H2452、MSTO-211H、NCI-H28)と良性中皮細胞株1種(Met-5A)を培養し、継代を安定化した。形態学的観察とともに、主に酵素抗体法により、表現型の確認を行い、定量PCRによるATBF1 mRNAの発現量を解析した。酵素抗体法では、いずれもサイトケラチンやビメンチンなどの中間系フィラメントが陽性で、サイトケラチン5/6が陽性であり、中皮細胞としての性格を有するものと考えられた。扁平上皮のマーカーであるp63は陰性で、また腺癌のマーカーであるBER-EP4やCEA、TTF-1は陰性であった。3種の抗ATBF1抗体を用いた酵素抗体法では、N末端側を認識するとされるMB034抗体では、Met-5Aで主に核に、H2452、H28では主に細胞質に染色され、211Hでは核小体様の陽性像がみられた。中央部を認識するとされるD1-120抗体では、いずれの細胞株も主に核に陽性を示した。C末端側を認識するとされるAT-6ではいずれも主に細胞質に染色性がみられたが、211H では核小体様の陽性像がみられた。ATBF1の染色性や細胞内局在において、抗体種や細胞株による相違が見られ、今後その意義を検討する必要がある。ATBF1のmRNA量の測定では、Met-5Aに比し、3種の中皮腫細胞株でATBF1mRNA量が減少しており、ATBF1の癌抑制遺伝子としての可能性が示唆された。とくに211H に比し、H2452とH28 で減少がみられ、酵素抗体法の結果はある程度mRNA量を反映している可能性がある。また、Met-5Aの亜株を作成したところ、亜株によりATBF1mRNA量に差異が認められ、同系統の細胞でもその増殖状態によりATBF1量が異なる可能性が示唆された。この点はさらに追試し確認する予定である。ATBF1の酵素抗体法ではmRNAの少ない亜株で、染色性の低下が見られ、やはり蛋白発現がある程度mRNA量を反映している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の予定であった複数種のヒト悪性中皮腫細胞株と良性の中皮細胞株を入手し、継代を安定化させることができた。それらの細胞形質も酵素抗体法で各種解析することができ、来年度の一部予定であったATBF1 mRNAの定量にも手技的に成功した。これらの点に関しては、ほぼ予定通り進行しているが、未だウエスタンブロット法に成功していない。その理由としてATBF1は分子量400 kDaを越える巨大な蛋白であり、分解されない状態で回収をして再現性の高いデータを出すことが難しいことが考えられる。細胞からのタンパク質の回収方法と、メンブレンへの転写方法を最適化するために時間がかかっているために実験予定が長引いている。
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今後の研究の推進方策 |
温度と時間、ゲル濃度を変化させウエスタンブロットを成功させる。また、定量PCR法の再現性を各細胞で確認する。その上で、ATBF1の分子量の変化やリン酸化の有無を確認し、細胞内局在との関連性を解析していきたい。ATBF1量と各細胞周期あるいは増殖能との関連を、細胞接着時や浮遊状態による違い、Fucciによる細胞周期の確認などを用い検討する。さらに各細胞に、ATBF1のshRNAを導入、あるいはCRISPRによるノックアウトを行った状態で、ATBF1量の変化、細胞内局在、増殖能、形態学的変化等を観察する。可能であれば、プラスミドを用いATBF1を強発現することでの細胞動態の変化を観察したい。また、Phos-tag法などを用いることで、リン酸化の有無を解析することができれば、リン酸化に影響を与える薬剤等を加え、リン酸化ATBF量の変化、細胞内局在、細胞増殖能の変化を調べる。リン酸化の有無と細胞内局在に関して明確な関連性が得られない場合には、PP1,PP2等の脱リン酸化酵素量とATBF1量の関連性をみる。 さらに、悪性中皮腫において他の癌抑制遺伝子の異常をFISH等により解析し、それらの結果とATBF1の発現量や細胞内局在とを比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ATBF1のウエスタンブロット法が当初期待していたように進まなかった。その理由としてATBF1は分子量400 kDaを越える巨大な蛋白であり、分解されない状態で回収をして再現性の高いデータを出すことが難しいことが考えられる。細胞からのタンパク質の回収方法と、メンブレンへの転写方法を最適化するために時間がかかっているために実験予定が長引いている。また、ATBF1の抗体は我々のグループで委託作成しているポリクローナル抗体であり、この抗体作製とその解析が当初の計画より、時間がかかっている。そのため、補助事業の年度内の完了が困難となった。
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次年度使用額の使用計画 |
ウエスタンブロットに関しては、温度と時間、ゲル濃度を変化させ成功させ、他の実験とともに研究を遂行していく。抗体に関しては、次年度の予算と合わせて、抗体作製とその解析を行う予定である。
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