研究実績の概要 |
ファイトケミカルであるレスベラトロール (RSV) の抗がん作用を、スフィンゴ脂質代謝に焦点を当て解析した。RSVは、ヒト白血病細胞株K562ならびにヒト大腸癌細胞株HCT116の細胞増殖を強く抑制したが、使用した濃度では両細胞株に細胞死を誘導するには至らなかった。細胞内スフィンゴ脂質代謝産物をLC-MS/MSにて定量すると、RSV処理によって細胞内スフィンゴミエリンとスフィンゴシン1リン酸が減少し、セラミド量が増加していた。 主要なスフィンゴ脂質代謝酵素の遺伝子発現量を、定量RT-PCRにて測定すると、RSV処理に依って酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASMase)、中性スフィンゴミエリナーゼ2 (NSMase2) の発現増加が認められ、酵素活性の測定で酸性SMaseの活性の増加が確認された。このRSVによる細胞内セラミドの増加は、阻害剤であるdesipramineにて抑制された。 RSVによるASMaseのmRNA増加機序を探るべく、ASMase 5' promoter領域の探索をルシフェラーゼレポーターベクターを用いて行い、RSV処理時のASMase 5' promoterのEGR転写因子結合領域の重要性を明らかにした。さらにこのEGR転写因子結合領域に対する影響を、EGR1, EGR2, EGR3, ATF3, c-Jun転写因子各発現ベクターの過剰発現にて解析し、EGR1, EGR3, ATF3-c-Jun complexの効果を明らかにした。 EGR family転写因子とASMase promoter 領域の結合を、EMSA並びにChIP assayにて証明した。今回の研究はファイトケミカルであるRSVの細胞増殖抑制効果に細胞内セラミドが関与しており、それが細胞内スフィンゴミエリンのASMaseによる分解機序が有力な働きをしている事を、初めて証明した結果である。
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