研究実績の概要 |
分化型甲状腺癌の放射性ヨード治療は、腫瘍細胞におけるナトリウム/ヨード共輸送体 (Na/I Symporter, NIS) の発現に依存しており、NISを介した放射性ヨードの腫瘍細胞への選択的な取り込みは腫瘍を標的とした細胞毒性をもたらす。われわれは、胃癌細胞を用いた予備実験で、細胞分化に重要なレチノイド(ビタミンA誘導体)がNIS遺伝子の発現を増加させ、放射性ヨードの取り込みを有意に上昇させることを見出している。この結果は腫瘍細胞特異的な NIS の発現誘導を利用した胃癌に対する標的治療の可能性を示唆するが、その実現のためには、胃癌細胞におけるNIS 発現誘導のための細胞内シグナル伝達を解明し、より特異的かつ効率的にヨードの取り込みを誘導する必要がある。
2017年度には、レチノイドの NIS 遺伝子発現誘導効果のメカニズム検索の過程で偶然確認されたタンパク質合成阻害剤によるNIS発現誘導について、臨床で使用されている薬剤を含め、再現性や時間依存性、用量依存性についても検討を加えた。その結果、胃癌細胞株 MNK45 と乳癌細胞株 MCF7 で相違が見られ、両者のレチノイドによるNIS発現誘導メカニズムと同様、タンパク合成阻害剤の効果もそれぞれ異なるメカニズムに依存している可能性が示唆された。さらに、本研究申請後に新たに当施設に導入された次世代シークエンサーによる網羅的small RNA解析により、レチノイド刺激あるいはタンパク合成阻害剤で有意に発現促進ないし抑制されるmiRNA 種を、MKN45で12、MCF7で20 同定した。両細胞で同様に発現制御される miRNA も複数同定されており、今後 NIS 遺伝子発現制御における役割や、放射性ヨード治療の増強剤としての可能性につき、検討していく必要があると考えられた。
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