研究課題
申請者らはこれまでに、骨髄球系造血に必須な転写因子PU.1が直接、抑制性に制御する標的遺伝子として、多機能タンパク質メタロチオネイン(MT)を同定した。MTは、細胞内金属代謝に関わり、活性酸素の除去や、乳癌、大腸癌、肺癌などの固形腫瘍における高発現が報告されているが、造血器腫瘍における機能は明らかにされていない。申請者らは、全トランス型レチノイン酸(ATRA)を急性前骨髄球性白血病(NB4)細胞に添加し、好中球へと分化誘導を試みると、MTの過剰発現下においては、NB4細胞の分化が強力に阻害されることを発見した。このような結果から、高齢者などに広く用いられる低用量抗がん剤を用いた分化誘導療法の予測マーカーとして、MTの発現解析が有用である可能性が考えられる。平成26~27年度における本研究課題において、MTの抗がん剤効果における役割を検討するため、造血器腫瘍の治療で代表的な抗がん剤であるシタラビン(Ara-C)を添加したところ、予想通り、MT過剰発現NB4細胞は、コントロール細胞に比して、50%有効濃度が1.5~2.0倍程度上昇し、ある程度の薬剤耐性を有していることが判明した。さらに、Ara-Cと同様、骨髄系腫瘍でよく用いられる6メルカプトプリン(6MP)で検討したところ、MT過剰発現NB4細胞は、100~400μMの6MP添加後48時間で、むしろ増殖が最大180%程度亢進することが判明した。さらにこのような抗がん剤に認められる耐性機序を明らかにするため、平成27~28年度は、抗がん剤添加後の細胞より、核・細胞質蛋白を調製し、ウエスタンブロットを行い、細胞内DNA損傷応答経路の解析を行った。その結果、同経路を中心的に制御する因子、ataxia teleangiectasia mutated (ATM)の発現異常がMT過剰発現NB4細胞において認められることを明らかにした。
3: やや遅れている
平成28年度は、申請者が現所属先に異動となり、研究環境整備に時間がかかったため、28年度中に本申請課題を終了させることが当初の計画であったが、若干間に合わなかった。実験自体はほぼ終了したため、平成29年度はこれはでの結果をまとめていく予定である。
MT過剰発現NB4細胞を用いた抗がん剤効果の解析で、特異的な効果が認められた、Ara-C、6MP以外では、ダウノルビシン、メソトレキセートなど複数の抗癌剤を用いて検討を行ったが、いずれもMT過剰発現細胞特異的な効果を認めることが出来なかった。そこで可能であれば、これまでのデータを用いて論文発表の可能性を探り、まとめていきたいと考えている。
平成28年度は、申請者が現所属先に異動となり、研究環境整備に時間がかかったため、28年度中に本申請課題を終了させることが当初の計画であったが、若干間に合わなかった。
平成29年度は、これまでの研究成果をまとめつつ、学会発表を行う。まずは、5月27日に予定されている日本検査血液学会東北支部総会の一般演題で指導学生による一部の研究成果を、特別講演で申請者がこれまでの経緯を踏まえて発表を行う予定である。また、申請者および指導学生が主に実験を行っている東北医科薬科大学病院検査部では、プレゼンテーションの環境が整っていないため、スクリーンの設置費用、および論文作成、プレゼンテーション用のパソコンの購入を計画している。また、今年度、複数の学会出席および発表を予定しており、それに伴い学会旅費、及び論文投稿用費用も必要と考えている。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Mol Cancer
巻: 15 ページ: 38
10.1186/s12943-016-0526-2
生化学
巻: 88 ページ: 233-236
http://www.tohoku-mpu.ac.jp/medicine/about/kensa/