研究代表者吉野は杏林大学において循環器の責任者として救急診療体制を確立、急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症)、急性大動脈解離、重症不整脈、急性肺塞栓症などの急性疾患に対してCCUで24時間体制の対応をしてきた。その中で、来院時心肺停止例を含めて年間100例近くを救急対応し、20-30例ほどの救命例を継続的にフォローアップしている。その中には、家族性の症例も相当数存在する。一方、日本の大動脈瘤・大動脈解離Thoracic Aortic Aneurysm and Dissection (TAAD)の頻度は高齢化社会、高頻度の動脈硬化により高い値を示しており、1万に0.3人-0.5人とされていた。しかし、研究代表者を含めて、東京都に限り虱潰しに調査した結果、急性心筋梗塞の3分の1から4分の1の頻度でTAADが原因であり、これを勘案するとその頻度は従来の倍、即ち人口1万に1人と欧米に比べ極めて高い頻度で発生している事が判明した。TAADには家族性を示す例が約20%存在し、その内のさらに約20%に遺伝的変異が報告されている。最も高頻度に変異を認める平滑筋特異的αアクチンACTA2遺伝子を含め、Marfan症候群原因遺伝子FBN1フィブリリン-1タンパクなどの7つの原因遺伝子が同定されている。我々は、ACTA2、FBN1、TGFBR1遺伝子に加えて、ゲノム上154kbで41エキソンからなる平滑筋ミオシン重鎖MYH11遺伝子の解析系を確立した。また、少ない検体量で変異解析を可能とするため、遺伝子全領域を約20kbの9断片に分けLong PCRで増幅し、これにより7つの原因遺伝子のうち4遺伝子の解析を可能とした。さらに、この反応をマルチプレックスLong-PCRとすること、および、培養血管内皮及び平滑筋細胞を用いたin vitroの実験系の確立に努めた。今後、網羅的解析を目指した次世代シークエンサーの利用、in vitro実験系でのCRISPR/CASによる遺伝子改変等により、本研究を今後も発展させていく予定である。
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