研究課題
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)は、急性骨髄性白血病に移行しやすい予後不良の造血障害であるが、発症と病型移行の分子機構には未解明の点が多い。本研究の契機となった細胞株MDS92は当研究者が約20年前に樹立したが、この培養細胞株を継代中に、あらたな7つの亜株を樹立することができた。MDS92とその亜株は、MDSから急性白血病への流れをインビトロで再現した、世界で唯一の培養細胞モデルのラインアップである。これらの細胞株と、発端となったMDS患者骨髄細胞を用いて全エクソーム解析をおこない相互比較することによって、病型進展に関わる遺伝子変異を探索し、MDSの病型移行・病態悪化の分子機構の一端を解明すること、そしてそれを防止する新しい治療戦略への道を開くことが本研究の目的である。これまでに全エクソーム情報の収集を完了し、各細胞相互間の塩基配列データの比較解析をおこなってきた。その結果、CEBPA変異、N-RAS変異は発端となった患者の骨髄細胞には見られなかったが、細胞培養途上で出現し、各細胞株に受け継がれていることがわかった。またMDS92からMDS-Lへ移行する段階でHistone1H3C 変異(K27M)が検出された。この変異は小児脳幹腫瘍で報告があり、JMJD3阻害薬が有効とされているが、MDS-Lへの特異的抑制効果はインビトロでは示されなかった。他にも病型移行への関連が示唆される遺伝子変異があり、現在検討中である。
3: やや遅れている
網羅的遺伝子解析の過程で各細胞相互間の塩基配列データの比較解析を行っているが、情報量が非常に多く、かつ有為な変異かそうでないかの判別に時間を労している。文献等の情報収集能力をさらに改善する必要がある。複数個の候補遺伝子が浮上しているが、細胞レベルでそれらの遺伝子改変をおこなう計画があるが、遺伝子導入がやや困難な細胞種であることが予備実験でわかっており、その点でも今後難航する可能性がある。
大学院生の参入によって、研究・情報収集の遂行力を高めることを予定している。また細胞株レベルでの遺伝子導入実験計画に加えて、特異的阻害剤の探索に注力する。
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Cancer Biomarkers
巻: in press ページ: 1-12
10.3233/CBM-160612
Scientific Reports
巻: 5 ページ: 16709 (1-12)
10.1038/srep16709
http://www.kawasaki-m.ac.jp/lh/