研究課題
本研究では、神経障害性疼痛モデル動物の左右の帯状回から中脳水道周囲灰白質へのシナプス伝達および調節機構を明らかにすることを目的としている。神経障害性疼痛は、脊髄後根神経節や脊髄後角における機能異常によりアロディニアが生じることが知られているが、最近では脳内での活動の変化が数多く報告されている。神経障害性疼痛モデルのfMRI像では、片側の末梢神経障害にも関わらず右左両側の帯状回が活性化していることから、両側の帯状回が活性化状態になることで疼痛の慢性化が強固なものになり、下降性疼痛抑制系の破綻を来している可能性がある。しかしながら、どのようにして片側の坐骨神経損傷により左右両側の帯状回が活性化状態になるのか。また、左右の帯状回から視床や下降性疼痛抑制系の神経核である中脳水道周囲灰白質への神経投射は互いを相殺する関係にあるのかについては明らかにされていない。そこで、本年度は坐骨神経部分結紮モデルマウスを作製し、左右の帯状回のどのようなタンパク質の発現変化が起きているかについて、二次元電気泳動法を用いて解析を行う計画を立てた。今回は、結紮後4週齢のマウスの左右の帯状回を用いて実験結果を比較した。その結果、タンパク質の分離は良くなかったが、コラプシン反応媒介タンパク質などの発現が変化している傾向が見られた。このタンパク質は神経の軸索伸長などに関与しており、末梢神経に障害を受けた場合に脳内の帯状回の神経細胞がタンパク質レベルで変化を起こしていることが示唆された。
3: やや遅れている
これまでの疼痛研究では、慢性疼痛に対する脊髄後根神経節でのP2X受容体あるいはGABAA受容体の関わりやスライスパッチクランプ法を用いた帯状回における神経活動の変化を検討してきた。本年度は、左側の坐骨神経結紮による左右半球それぞれの帯状回におけるタンパク質発現量の変化について二次元電気泳動法を用いて検討し、コラプシン反応媒介タンパク質の発現量が異なる傾向にあるという結果を得た。しかしながら、タンパク質の分離の精度がもう一つ良くないために確証が持てる結果を得たとは判断しにくい状態であった。また、左右の腰髄についてもタンパク質の発現変化について検討を行った。これまでに、坐骨神経を結紮した慢性疼痛モデルにおける腰髄ではミグログリアの増加やP2X4受容体の発現量の増加が知られているため、今回行っている二次元電気泳動の実験でも同様の結果が得られるかを確認する目的で検討を行った。その結果、結紮側でのプロテインホスファターゼの減少は見られたが、すでに知られているP2X4受容体などの変化は捉えることができなかった。このことは、アプライするタンパク質の量を変え発現量の変化が見やすい条件を探る必要があるかもしれない。
昨年度は、現在までの達成度に記述したように、左側の坐骨神経結紮マウスを用いて左右半球の帯状回および左右の腰髄におけるタンパク質発現量の変化を検討したが精度がもう一つであった。そこで、今後は二次元電気泳動の分離が良くなるようにアプライするタンパク質の量を調節し、さらに詳細な変化を捉えることができるようにする。その後、変化のあったタンパク質の抗体を用いて、ウエスタンブロット法によりどれくらいの量的変化があるかについて半定量的な測定を行う。また、検出されたタンパク質が帯状回のシナプスにおいてどのような役割を持っているのかを検討するために、スライスパッチクランプ法を用いて神経細胞の活動に対する影響を記録する。一方、左右半球の帯状回からの神経投射について蛍光トレーサーを用いて検討することを当初から計画しているので、この研究についても遂行していく予定である。
本年度は、二次元電気泳動法を用いたタンパク質の発現変化を解析し、変化したタンパク質の量的変化についてその抗体を用いて検討を行う予定だったが、二次元電気泳動によるタンパク質の分離があまりうまくいっておらず、変化したタンパク質の同定に確信が持てるものではなかった。そのため、次のステップである抗体を用いたウエスタンブロット法による検討に進むことができず、抗体やウエスタンブロット法に用いる消耗品等を購入する予定の研究費が差額分として生じた。
本年度の差額分は、次年度にタンパク質解析の分離度を改善し、当初から計画している抗体を用いた実験を行う予定であり、抗体やウエスタンブロット法に用いる消耗品の購入に使用する。
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Neurobiol Dis.
巻: 64 ページ: 142-149
10.1016/j.nbd.2013.12.014