研究課題/領域番号 |
26460695
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
倉田 二郎 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (50349768)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 慢性疼痛 / 磁気共鳴画像法 / 脳バイオマーカー / 機能的磁気共鳴画像法 / 安静時機能的磁気共鳴画像法 / voxel-based morphometry / 拡散強調画像法 |
研究実績の概要 |
慢性疼痛患者18人、健康被験者17人を対象に、オフセット鎮痛の心理物理実験、各種質問票による慢性疼痛の質的・定量的評価、MRI撮像を実験プロトコール通りに横断的に施行した。また、幻肢痛患者1人に対して3回の縦断的検査を施行した。現在これらのデータを詳細に解析しており、概ね次のような結果を得ている。 1)慢性疼痛患者ではオフセット鎮痛における疼痛反応が鈍化しており、賦活fMRIでは内側および後外側前頭皮質、後帯状皮質、海馬、扁桃体など痛みの情動・下行性疼痛抑制系に関与する脳部位で陰性反応を呈した。これらの反応が幾つかの心理物理指標と相関を示した。また、幻肢痛患者の鏡療法・義肢使用などリハビリテーション治療継続により、6か月間という短期間でも、感覚運動皮質の賦活・機能的結合性・厚さがダイナミックな変化を呈しており、これらが慢性痛治癒と関連する可能性を示唆した。 2)慢性疼痛患者ではデフォルト・モード・ネットワークおよび感覚連合野での機能的結合性が低下する一方、視床、大脳辺縁系、大脳基底核、中脳水道灰白質などの領域で機能的結合性の増大を呈した。特に大脳基底核群間の機能的結合性が、痛みの心理物理指標と相関を示した。 3)慢性疼痛患者は後帯状皮質、前帯状皮質、前島皮質など痛みの情動関連部位と一次感覚運動野で灰白質体積減少を、逆に感覚連合野で灰白質体積増大を示した。これらを起点とした機能的結合性解析により、その病態生理学的意義の解析を進めている。 4)拡散強調画像のグループ間解析において、慢性疼痛患者は前頭皮質・帯状皮質の交連線維に相当する特定の白質部位に機能低下ないし萎縮を呈した。その程度は痛み閾値などの心理物理指標と相関しており、痛みの脳内ネットワークにおける動的変化に関連する可能性がある。 以上の結果から、マルチモーダルMRIプロトコールにより、慢性疼痛脳の本態解明が期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性腰痛症、線維筋痛症など、各疾患毎の患者数は当初の目標値に達していない。しかしながら、慢性疼痛患者全体と、年齢・性別をマッチさせた健康被験者の数に関しては、充分な統計強度が得られる水準に達している。各MRIモダリティー毎の解析技術が格段に向上して、世界的水準にも見劣りしない内容の報告が可能な段階に達している。したがって、各疾患に共通する「疼痛の慢性化」に関連する要素を議論することが出来る状況にある。 一方、各慢性疼痛疾患に特異的な知見を得るためには、患者数をさらに増やす必要がある。当施設だけの患者リクルートでは限界があるため、他施設との共同研究、共同データベース設立を検討する必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
慢性疼痛患者における脳機能・解剖変化を、MRIの各モダリティーからの異なる視点から整理し、従来の知見との整合性と相違を十分の検討する。その結果から、MRIの撮像により慢性疼痛の診断と治療評価に用いることが出来る、「慢性疼痛脳バイオマーカー」を提案する。このような内容を各種学会や国際学術誌、単行本編集等を媒体にして、広く日本及び世界に発信する。 また、当施設での患者・被験者のリクルートをさらに進めるばかりで無く、今後は多施設協同研究、慢性疼痛脳データベース設立など、全国・世界規模での脳機能研究コンソーシアムを目指す。このような展開により、各慢性疼痛疾患カテゴリー毎の患者数をより多く集めることが期待できる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
MRI撮像費用が計画よりも少なく済んだため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度のMRI撮像費用、もしくは画像解析用ソフトウェア(BrainVoyager, Matlab)購入・更新費用に充てる予定である。
|
備考 |
日本語名は「第9回麻酔と意識国際シンポジウム」。術中覚醒、全身麻酔による意識消失機序に関する世界で唯一の国際会議である。会長として、2014年7月20日~23日に東京国際フォーラム(東京都)にて主催した。
|