研究対象被験者数は、慢性疼痛患者23人、健康被験者18人に達した。オフセット鎮痛の心理物理実験、各種質問票による慢性疼痛の質的・定量的評価、マルチモーダルMRI撮像を横断的に施行した。これらの結果を総合して3つの原著論文を作成し、海外の英文査読雑誌に投稿した。現在改訂または査読中である。論文の主要な内容は以下の通りである。 1)慢性疼痛患者ではオフセット鎮痛が減弱するが、熱刺激時間を長くすることによりオフセット鎮痛が増強した。慢性疼痛患者では、痛み知覚の伝達が遅延し、下行性疼痛修飾系の起動が遅くなる可能性が示唆された。2)慢性疼痛患者では、前帯状皮質及び前島皮質の灰白質萎縮が観察された。このうち前島皮質から側坐核・内側前頭皮質などへの報酬系回路が、機能的結合性低下を呈した。痛みの慢性化には報酬系回路のネットワーク機能減弱が関わることが示唆された。3)fMRI同時撮影中にも、慢性疼痛患者は健康被験者に比しオフセット鎮痛が減弱した。この現象が、fMRIにより背外側前頭皮質・中脳水道灰白質などの下行性疼痛修飾系、および側坐核・内側前頭皮質などの報酬系における脳活動の違いに関連することを明らかにした。オフセット鎮痛が慢性疼痛患者で減弱するメカニズムを脳画像で示したのは世界で初めての快挙である。 また、慢性腰痛患者を対象にして福島県立医科大学と協同で行っていた2つのfMRI研究を英文査読雑誌に投稿し掲載された。その結果は以下の通りである。 4)精神医学的症状が強い慢性腰痛患者では、その症状が弱い慢性腰痛患者に比し、腰痛刺激時の側坐核の活動が小さい。即ち、報酬系の脳活動が抑制されている。5)健康被験者は腰痛刺激に対して前帯状皮質・背外側前頭皮質が活動するが、慢性腰痛患者はこの活動が弱く、その程度は痛み症状の強さと相関する。即ち、下行性疼痛修飾系の活動低下が痛み慢性化に関連する。
|