研究実績の概要 |
これまでにマウスの脊髄くも膜下腔に投与した選択的κオピオイド受容体 (KOR) 作動薬であるTRK-820がモルヒネにより生ずる痒みを抑制し、さらにモルヒネの鎮痛効果を増強することを明らかにした。マウス足底術後痛モデルにおけるモルヒネの脊髄くも膜下腔投与による鎮痛効果を検討した多くの研究は存在するが、KOR作動薬の役割は明かではない。今回、術後痛モデルにおいて、モルヒネとTRK-820の脊髄くも膜下腔投与による急性期の鎮痛効果と術後痛の経時的変化を検討した。C57BL/6系雄マウス各群6匹 実験1: 術後痛モデル作成2時間後、モルヒネ 0.1, 0.3, 1.0 nmol、TRK-820 100, 300, 1000 pmol、モルヒネ 0.1 nmol + TRK-820 100 pmol、または、生理食塩液 5μlを脊髄くも膜下腔投与した。手術直前、脊髄くも膜下腔投与前、投与後150分間 von Freyフィラメントによる痛み閾値を測定した。実験2: 実験1と同様の薬剤を脊髄くも膜下腔投与した。手術直前、術後脊髄くも膜下腔投与前、術後1, 3, 5, 7日目の痛み閾値を同様に測定した。実験1: 全群で術前に比べ、術後の痛み閾値は低下した。投与15, 90分後、生理食塩液群に比べモルヒネ+TRK-820群では有意に痛みの閾値が高かったが、単独群では有意差を生じなかった。実験2: 生理食塩液群に比べモルヒネ+TRK-820群では術後1日目において痛み閾値は有意に上昇した。術後痛モデルにおいてモルヒネとTRK-820ともに術当日に鎮痛効果を示し、混合群ではTRK-820はモルヒネによる鎮痛効果を術当日および術後1日目に増強したことから、KOR作動薬の脊髄くも膜下腔投与は、術後鎮痛薬として有用である可能性が示唆された。
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