研究実績の概要 |
妊婦にオピオイドを用いた脊髄くも膜下麻酔を施行すると50-80%と高率に痒みが生じる。オピオイドによる痒みは難治性であり確立した治療法はない。κオピオイド受容体(KOR)に作用するペンタゾシンがオピオイドによる痒みに対して有効な治療であった症例を報告したが、予防的投与に関する検討はこれまでない。今回、KOR受容体に作用するペンタゾシンがオピオイドによる痒みに対する予防的効果を検討した。予定帝王切開患者122人を無作為に対照群 (S群)とペンタゾシン群 (P群)に割り付けた。0.5%高比重ブピバカイン10 mg、フェンタニル10μg、モルヒネ100μgを脊髄くも膜下腔に投与した。胎児及び胎盤を娩出後にS群は生理食塩液1 mlを、P群ではペンタゾシン15 mgをそれぞれ静脈内投与した。主要評価項目として術後24時間以内の痒みの発生率を調べた。副次評価項目として初めて痒みを生じるまでの時間、痒みの重症度、疼痛スコア (NRS)、嘔気嘔吐 (PONV)、呼吸抑制について病棟帰室時、3、6、12、24時間後に評価した。術後24時間の痒みの発生率はS群では77%、P群では53%であり、P群では相対危険度0.69で有意に低かった (95%信頼区間52, 90 ; P=.007)。初めて痒みが生じるまでの時間は、S群392分、P群1460分で有意に延長していた (それぞれ中央値、P=.003)。中等度以上の痒みを生じた患者数は相対危険度0.096 (95%CI, 2,54; P=.004)で有意にP群において少なかった。NRS、PONV、呼吸抑制の有無については両群間で有意差はなかった。ペンタゾシンの予防的投与は帝王切開術後のオピオイドによる痒みの発生頻度を低下させ重症度も軽減させることが明らかとなった。
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