本邦では糖尿病患者が急増しており、その合併症のひとつである神経障害は進行すると下肢のしびれが激しい疼痛を伴うようになる。このような状態は様々な鎮痛薬や神経ブロック療法に抵抗を示す病態であり、脊髄刺激療法が有効である場合が多い。しかし脊髄刺激療法が有効である作用機序として、自律神経を介した血流改善のほか、下行性疼痛抑制系の関与が指摘されているが明らかではない。本研究では糖尿病性神経障害モデルラットの脊髄でのマイクロダイアライシス法を用いて脊髄後角でのモノアミン・GABA・グルタミン酸などのアミノ酸を測定し、脊髄刺激によるこれらの物質の変化を分析することで脊髄刺激療法の作用機序解明を試みた。 様々な刺激様式や出力を用いた脊髄刺激を施行したが、脊髄後角でのモノアミンや神経アミノ酸に変化はみられなかった。脊髄後角での変化はなくとも脳内の神経アミノ酸、特にGABA動態の関与を考え、線条体でのGABAを測定した。しかし脊髄刺激による変化は認めなかった。GABA以外の神経アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、タウリン、アラニン)やモノアミンについても変化はなかった。 麻酔による脳内GABAへの影響を考慮し、検体である線条体での灌流液採取の数日前にセボフルレン麻酔下に椎弓切除・硬膜表面への電極留置と線条体へのガイドカニューレ留置を行った。麻酔の影響がない自由行動下での脊髄刺激による線条体GABA動態を調査したが、刺激による変化は認めなかった。今回の研究では脊髄刺激療法の鎮痛機序としてモノアミンや神経アミノ酸動態の変化が関与していることを明確にできなかった。
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