研究課題
平成26年度は、当初の研究実施計画に準じて予定通りの研究を概ね進めることができた。1)抗がん剤パクリタキセルおよびビンクリスチン誘起神経障害性疼痛モデルにおいて、内因性HMGB1が病態の発現および維持に関与することを証明するデータが揃い、抗HMGB1中和抗体とHMGB1不活化作用を有する遺伝子組換え可溶性トロンボモジュリンの治療応用に向けた重要な知見が得られた。2)HMGB1をラット・マウスの足底内へ投与して誘起される痛覚過敏にはRAGEとTLR4が関与することが明らかとなった。3)シクロホスファミド全身性投与およびサブスタンスP膀胱内注入により誘起される膀胱炎・膀胱痛モデルにおいて、内因性HMGB1の関与が明らかとなり、さらにその下流シグナルとしてRAGEの関与が示唆された。4)ブチレートをマウスの結腸内に反復投与することで結腸痛モデルを作成することに成功し、HMGB1の関与を示唆する知見が得られた。5)セルレイン誘起急性膵炎マウスにおける膵臓痛発現には、内因性HMGB1によるRAGEおよびCXCR4の活性化が関与することを示唆する治験が得られた。6)マウスマクロファージにおいて、HMGB1の核から細胞質への移行、細胞外遊離のメカニズムを解析し、HMGB1のアセチル化の重要性を示唆する知見が得られた。このように、本年度の実験により、概ね、当初の仮説を支持する結果が得られ、次年度さらに研究を進めていくための方向づけを行うことができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、がん化学療法に伴う神経障害性疼痛と、膀胱痛、膵臓痛、結腸痛などの内臓痛の病態に核内DNA結合タンパクの1つであるHMGB1が関与する可能性を検討することがまず第一の目的であったが、今年度の研究によって、当初の仮説を支持する結果が得られた。異なる体性痛・内臓痛の病態にHMGB1が関与することが今年の研究により明らかとなったが、細胞外に遊離されたHMGB1の由来やHMGB1の下流シグナルは、それぞれの病態で異なっている可能性も示唆されたので、各モデルごとにどのような分子メカニズムが関与しているのかを今後検討していく必要がある。このように、次年度以降の研究の方向性を考えていくための基本的な成果が得られたので、研究課題全体としては、「順調な進展」と評価できる。
今年度の研究はほぼ計画通りに進展し、当初の仮説を支持する知見が得られたので、今後も基本的には当初計画に沿った形で研究を進めていく予定である。1)初年度の研究により、神経障害性疼痛および内臓痛モデルにおいてHMGB1の標的分子としてRAGEの重要性な役割を果たすことが明らかとなったことより、RAGEのノックダウンおよび抗RAGE中和抗体の影響を検討する。2)HDAC阻害用によってHMGB1のアセチル化を促進することでHMGB1の細胞外遊離が起こることが報告されており、我々もマクロファージにおいて同様の現象を確認している。そこでHDAC阻害薬を足底内、結腸内、膵管内、胱内に注入した後、行動観察あるいは脊髄後角におけるFosタンパク発現あるいはERKリン酸化の検出を行い、HMGB1、RAGE, TLR4の関与を検討する。3)上記が順調に進むようであれば、脊髄、後根神経節、末梢組織中のHMGB1その他の関連タンパクの挙動を免疫染色によって解析する実験を前倒しで実施する。
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