研究課題/領域番号 |
26460715
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
武田 賢 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60312568)
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研究分担者 |
角谷 倫之 東北大学, 大学病院, 助教 (20604961)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 3Dプリンター / 放射線治療 / 患者補助固定具 |
研究実績の概要 |
放射線治療の固定精度を担保する患者補助固定具は主に手作業で作成されており、其の固定精度や工程時間は作成者の技術習熟度に依存する部分が多い。本研究では、患者補助固定具を3次元(以下、3D)プリンターによって可急的且つ精密に自動作成する造形技術の基礎研究を行い、特に使用頻度の高く、形状や凹凸度の個人差の大きな人体の頭頸部表面に適切にフィットさせる固定具を作成する為の課題探索とそれらの解決に向けた調査を行うことを目的としている。本研究の成果を発展させ、従来の手作業である作成工程を短時間で効率良く自動作成することによって、1)従来の補助固定具作成時の一定時間の体位保持等の患者側の負担を減らし、2)本邦の放射線治療従事者の人員不足問題を解消し、3)高精度放射線治療のより的確な応用へも道を開くことが最終的な目標である。 ワークステーションを使用し、既に撮像済であった健常ボランティア人の頭頸部CTデータを3D出力変換する為にソフトウェア上でのデータ加工を試みた。CTデータ加工の際は、寝台に接地する頭部をサポートする枕に相当する部分を含めて制作した。現状では既に枕部分が既製品として市販されているが、枕表面に頭部後面が十分接地しない為に固定精度低下が懸念される場合も時々散見される為である。初回3D出力した固定具は、特別な加工を必要とせずに健常ボランティアの頭頸部に苦痛無くフィットさせて固定することが可能であった。次に、この3D出力した固定具と従来の手作業により作成した同じ健常ボランティアの頭頸部固定具の固定精度を、MRIを用いて比較検討した。各々一断面のみの比較ではあったが、矢状断像と冠状断像における固定精度を検討した所、日本放射線腫瘍学会推奨の固定精度を各々の固定具が遵守出来ており、且つ3D出力した固定具は従来法による固定具と精度上、殆ど遜色の無い結果が得られたことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト型ファントムを用いて固定具を3Dプリンターにより出力した報告はあるが、実際のヒトの頭頸部固定具を3Dプリンターによって出力した報告は現時点で未だ無い。上述した様に、健常ボランティアの頭頸部固定具の初回3D出力は成功した。従来の手作業による固定具も同時に用手的に作成し、MRI(放射線被曝が無い)による両者における固定精度の比較を行った。限られた撮像面での比較ではあったが、単回固定中の固定精度については、従来の固定具と遜色の無い結果が得られ、日本放射線腫瘍学会で推奨している頭頸部固定具の固定精度も遵守出来る結果が得られた。以上より、撮像CTデータから頭頸部体表面の3D出力設計データへの変換フローの確認と、同データを用いて、枕を含む頭頸部固定具を3Dプリンターによって出力することが不可能ではないことが検証出来た。然しながら、3Dポリゴンデータに変換する際、材質加工後の縮小等の変化を考慮し、体表とどの位のgapを想定してデータを変換作成するか(体表面に沿って一律に圧迫密着する方法がよいか、眉間や下顎部等、骨構造の近接する箇所に密着の度合いを集中する方法がよいか等も含めて)も課題の一つとして挙げられた。健常ボランティアを対象に作成した補助固定具の初試作品では放射線被曝の問題の為、装着したままのX線透視による頻回の固定精度照合確認や、実際の放射線治療計画(3D出力した固定具と従来の固定具間の比較検討が困難である。試作品次作はその点を考慮し、ヒト頭頸部型ファントムのCT撮像データを加工して3D出力を試みた。初回3D出力固定具は体表とのgapを均一0mmで作成したが、ファントムの場合、gap 0mmでは表面にフィット出来ず固定具全体を被せることが困難であった。ヒトとファントムでは表面の弾力性等の相違が要因の一つとして考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度における3D出力の第二段階として、ヒト頭頸部型ファントムをCT撮像したデータから頭頸部固定具の3D出力を行ったが、ファントム表面とのgap設定が少な過ぎた為に固定具をファントムに被せることが出来ず、それ以降の実験が行えない不具合が生じた。その為、新年度は、まず表面からのgap調整を経た上で再度、3D出力を試みることから開始する。其の一方で、ヒト頭頸部型ファントムを元に従来の手作業法により作成した固定具も準備する。3D出力固定具をヒト頭頸部型ファントムに被せて放射線治療計画CTを撮像し、通常分割放射線治療に準じて単一ビーム並びに複数ビームを使用した頭頸部放射線治療模擬計画を東北大学病院放射線治療部の治療計画装置を用いて行う。並行して、従来の手作業により作成した固定具もヒト頭頸部型ファントムに被せて放射線治療計画CTを撮像し、同様の放射線治療模擬計画を行う。両方法で作成した固定具をファントムに被せ、X線透視装置を用いて主に照射野中心点(アイソセンター)の固定精度評価を、分割照射に準えて複数回に分割して施行する。同時に、両方の固定具を被せた放射線治療模擬計画における線量分布の評価と比較を行う。具体的には、治療計画内で作成した標的体積並びに正常組織体積内における線量体積ヒストグラムの比較である。更に、可能であれば、ヒト型頭頸部ファントム内における吸収線量の実測も並行して行う。従来の補助固定具と固定精度、並びに耐久度、放射線治療において違いに遜色が無いことを確認することを次点の目標として進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画時には3Dプリンター実機購入を予定していたが、研究に必要な精度を担保且つ3D出力可能な高精細3Dプリンター実機の価格は設置整備費を含めると研究費の範囲を大幅に超えることが判明した。その為、CT撮像データ取得と3D出力変換加工は申請者らが行い、実際の3D出力については、共同研究者である相馬らの事業所が所有する高精度大型3Dプリンターを使用する方針に変更したのが主な理由である。副次理由として、3D出力変換を行う為のワークステーション導入迄に数カ月を要したこと、そのソフトウェア使用方法の履修を経て実際のデータ変換開始まで更に1か月程を要したこともあり、実際の3D出力が年度内で2制作迄に留まったことが理由として挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
現在では、3D出力変換ソフトウェア使用の習熟度も進んでおり、今年度は、上記の課題に対処する為、積極的に試作品の3D出力と放射線治療における従来品との比較検討を行っていく予定である。
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