研究課題/領域番号 |
26460747
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大谷 敬子 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (20243587)
|
研究分担者 |
大瀧 慈 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (20110463)
佐藤 健一 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 准教授 (30284219)
冨田 哲治 県立広島大学, 経営情報学部, 准教授 (60346533)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 広島原爆被爆者 / 直接被ばく者 / 間接被ばく者 / 入市者 / 生存解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,第7期原爆被爆者動態調査事業によってとりまとめられたデータベースを用いて,これまで不明とされてきた原爆投下当初から1950年にかけての原爆被害状況を明らかにすることにある.2014年度の研究では,爆死,火傷,急性放射線障害などによる被爆早期における死亡状況を調べるため,観察期間を1945年8月6日から1945年年末までに区切り,全死因による死亡率の経日的変化と被爆した地域との関係を調べた.また,被爆早期の死亡原因を除いた上で,放射線被ばくによる健康影響を明らかにするため,観察期間を被爆による火傷や爆風による外傷,感染症などによる死亡がピークを越えたと考えられる1946年1月から1950年12月までの約5年間に限り,生存解析を行った.結果を以下に述べる.直接被ばく者については,爆心地からの地上距離が3km以遠で被爆した男性の死亡リスクが3km未満で被爆した男性に比べて高くなっていた.直接被ばく線量は距離のべき乗に反比例して減衰していくことを考えれば,放射線被ばくによる健康影響が直接被ばく線量のみで説明できると仮定すると,明らかに矛盾した結果である.おそらく,爆心地からの地上距離が3km以上で直接被ばくした男性の多くは,原爆投下後,家族の捜索などで爆心地付近に入り,放射性物質などを含んだ塵などに暴露されることにより間接被ばくを受けたと考えられる.また,入市者については,8月6日の入市者が8月7日以降の入市者に比べ死亡危険度が高く,その傾向は中年男性において顕著であった.以上の結果より,放射化された塵などを含む放射線降下物による間接被ばくの健康影響は,これまで考えられてきた以上に大きいのではないかということが強く示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射線影響研究所をはじめとする主な研究機関の報告では,放射線による健康被害は初期放射線によるものとされており,間接被ばくによる健康影響は,ほとんど無視できるほど小さいとされてきたが,原爆被爆(1945年8月6日)直後から5年間の健康被害の実態について解析した本研究の結果,間接被ばくによる健康影響は無視できるほど小さいものではないということが明らかになった.また,本研究に関連した研究として,1965年から始められた広島大学によるコホート調査を用いた解析においても同様な知見を得ている.当該年度の研究結果において,残留放射線による健康被害について再検討を行う必要があるという重要な知見を得たという点で,本研究は,ほぼ順調に進展しているものと考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究目的は,広島市の入市被爆者に焦点をあて, 間接被爆による疾患別死亡リスクの上昇の時期を推定することである. 被爆時年齢が13歳以上,到達時年齢(死亡時年齢)が80歳以下の集団は,死亡まで完全に追跡された集団として定義できる.その集団に対して,主な死因として感染症型,循環器型,固形がん型の3種類を想定し,それぞれの死亡危険度を原爆投下直後から死亡時までの経過時間を時間変数とするパラメトリックモデルで表し、死亡危険度の生存時間解析を行う.観察期間は,外傷,急性症状などの初期の被爆関連死の発生が一応収束したと考えられる1946年1月1日からその後の10年間とする.がんなどの病変が被ばく後どのくらいの時期から増え始めていくのかを性別,被爆時年齢,入市日を考慮して詳細に検討することは,福島原発事故における被災者の今後の健康管理に対して有用な情報を与えることができると考えられる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
国際誌論文投稿(3編)が予定より遅れたため次年度使用額が生じた.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,平成27年度の助成金と合わせて主に,国際誌投稿料およびライセンス管理料金として使用予定である.また,広島原爆被爆者データベース(ABS)の整備のための人件費として使用予定である.
|