研究課題
1000ドルゲノムプロジェクトの進行に合わせて、超マルチプレックスのPCR技術と半導体シークエンス技術を応用することで、より少ないDNAサンプル(数十ナノグラム)で、400以上の主ながん関連遺伝子の全エクソン配列情報を短時間で検討できる比較的安価なゲノムシークエンスプラットフォームを確立し、消化器がんを含む様々ながんで体細胞変異を探索し、遺伝子診断への応用を図っている。本研究では、千葉県で行われているゲノムコホート研究に応用し、60歳未満で消化器がんを発症したリスクグループ及び75歳までがんの発症を認めていない非リスクグループの解析を行い、県内のがん高発症地区の原因究明のため、院内患者集団と比較、さらに体細胞変異を検討することで、リスクマーカー、体細胞変異Signatureを同定し、がん予防、治療、予後予測への利用を試みることを目的として進めている。今年度は、千葉県東北部で行っているコホート研究で収集した検体のうち、胃がん発症症例20例、大腸がん発症症例17例及び非がん症例28例についてIon Ampli Seq と Comprehensive Cancer Panel(CCP)を使用し、Ion Torrent PGM 半導体シークエンサーによる解析を行った。そして、400以上のがん関連遺伝子の全エクソン部分のゲノム配列解析を行った。その結果、胃がん及び大腸がんを発症したリスクグループとがんの発症を認めていない非リスクグループとの比較から、リスクグループでは、より多くの報告されていない遺伝子多型が検出され、ナンセンスやミスセンス変異を示す多型も多く検出された。検出された遺伝子多型は、既知のがん関連遺伝子上にあり、非がん健常者では稀な多型と考えられ、全国でもある一定の低い頻度で拡散している多型も含まれていた。また、アミノ酸の変化により遺伝子の蛋白構造に影響を与え、蛋白質の機能を変えることが考えられ、この地域でのがん罹患感受性に影響を及ぼす可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
千葉県東北部の健常者を対象としたコホート研究で収集した検体(胃がん発症症例および大腸がん発症症例)を用いて、リスク群特異的かつ機能的な遺伝子多型を同定する解析は順調に行われた。胃がん、大腸がん発症者および非発症者20例の次世代シークエンサーの解析は終了し、さらに男女比を1対1として20例ずつの症例を追加し、DNAの抽出を行っており、次年度に向けた準備も整っている。
次世代シークエンサーによるがん関連遺伝子エクソームの包括的な解析結果に基づき、新たなGermlineがんリスク因子と関連するSomatic Mutation Signatureを提唱することを試みる。これまでの実験から、複数の消化器がん症例で共通し高頻度のgermlineでの遺伝子変異が特定の遺伝子で認められている。これらの遺伝子変異が単独で消化器がん発症リスク、予後不良がん発症のバイオマーカーとなり得るのか、もしくは他のgermline変異やSomatic 変異と協調して初めてリスクと相関するのかについて症例を増やして検討を試みる。次世代シークエンサーによるがん関連遺伝子のエクソーム解析をDeepに読むことで、機能的多型や単塩基変異、小欠失やインサーション、コピーナンバー変異の解析を行うことができる。それぞれの患者腫瘍でのMutation Signatureを同定し、germline変異とともに相関解析を行う。また、それらのSignatureやgermline変異と臨床所見との相関解析を行うことで、様々な臨床所見のprediction markerとなり得るかを検討する。これらの解析から新たなバイオマーカーとして活用出来るがん発症リスク予測や発症したがんの予後予測を検討するとともに、院内症例500例の正常組織解析を2次検証セットとして、リスクアレルの頻度確認を行い統計学的に優位な相関を示すバイオマーカーを探索する。
コホート研究で収集した胃がん発症症例、大腸がん発症症例および非がん症例についてリスク群特異的かつ機能的な遺伝子多型を同定した解析結果を基に、院内バイオバンク集積症例の中から、早期60歳以下発症例について同様のgerm-line検討を行う予定であったが、Ion Torrrent半導体シークエンサーのチップや試薬のアップグレード等が予測されたため、それを待ってより精度の高い研究を行うべきと判断し次年度繰越とすることとした。
前年度予定していた、院内バイオバンク集積症例を用いての胃がん、大腸がん症例でのgerm-lineの解析。当該研究を遂行するにあたり、研究補助者が必要となったため、その費用などに充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件)
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